The next day

1/1
前へ
/10ページ
次へ

The next day

※初めての翌日 「バスケットボール部、テニス部、新聞部の部費の値上げについてですが、検討の結果見送りになりました。見送り理由の詳細の開示を希望する場合はこの定例会のあと会計まで申し出て下さい。続きまして体育祭の部活対抗リレーについて……」  淀みなく滔々と運営会議の司会を務める奏さん。各部の部長や各委員の委員長、生徒会のメンバーなど学校の中心部にいるメンバーを前に臆することなく堂々と立つ姿は眩しくて目が眩みそうだ。  対する俺達1年は生徒会各役職の補佐でしかないため、会議室の端の席でただただメモを取って勉強するのみだ。  普段は気さくで柔らかい雰囲気の彼が、凛とした姿で怱々たるメンバーを前に話す姿にくらくらする。  そして、その格好良くて、清廉な彼は……昨夜は俺の腕の中で、俺のペニスを締め付けながら甘い声を上げていやらしく何度も何度も果てたのだ。 『あっ……しゅ、ごぉ……だめ……だめ……またイっちゃう……』  だめって言うくせに、ナカはいやらしく絡み付いて締め付けて離さない奏さんの甘くてエッチな声が頭の中でリフレインする。  思わず顔が情けなく緩みそうだが、ポーカーフェイスを作ることも同時に幾つかのことをすることも得意なので、淡々とした表情を作りながら会議の内容をメモしていく。   「対抗リレーにエントリーするメンバーと補欠のリストの提出は1週間前までになります。学校指定の体操着以外に正式な部活のユニフォームを着用して走ることは許可されていますが、それ以外の奇抜な衣装を着て走った部活は1週間の停部となりますので気を付けて下さい。それでは各委員会からの報告に移ります。保健委員長から順にお願いします」   会議を進める言葉をすらすらと話す彼の柔らかそうなくちびるが、いつもより少し腫れぼったくて赤いのは、俺が昨日散々舐めて吸って味わったから。  綺麗な声がほんの少しだけ掠れているのは、昨日綺麗な彼に俺の歯止めが利かなかったから。  襟元が苦しいのが苦手で第一ボタンは必ず開けている彼が、今日はきっちりとシャツのボタンを一番上まで留めているのは、柔らかい肌に俺が夢中になって、たくさん痕を残してしまったから。    ずっとずっと触れたかった。  制服から覗く腕や首、胸元に馬鹿みたく心臓を高鳴らせて、あの肌に触れたいと切に願っていた。  念願叶って、初めて彼の全てに触れることができた。何度も何度も妄想したよりもなめらかで張りがあって、いい匂いがした。  妄想したよりも清純で、清らかで、いやらしかった。    皆の前に立つあの、彼が。  恥ずかしそうに顔を真っ赤にして脚を開いてくれた瞬間を俺が思い出したとき。    ばちり、と奏さんの視線と俺の視線が合った。 「……っ」  俺は思わず息をのんだが、奏さんは何でもないように、静かに長い睫毛を瞬かせただけだった。  だが、少しだけ髪から覗く耳が徐々に綺麗に赤く染まっていったのが見えた。 (……気がおかしくなりそうだ……誰にも見せたくない……) *****  俺が馬鹿みたいに奏さんに見とれているうちに会議は漸く終わった。  俺達一年が会議室の机を片付けていると、 「なぁなぁなぁ。今日のカナ先輩何かヤバくない?」 奏さんのファンを公言して憚らない同じ一年の奴らがまだ会議室の前方で生徒会長の光さんと打ち合わせしている奏さんをチラチラと見ながら言った。 「わかる!今日超色っぽくない? いつもどおり格好いいんだけどさぁ、ちょっといつもより気怠そうで……まるで、昨日エッチしました、みたいな雰囲気……あっ光先輩、カナ先輩の腰触った!」  その声に俺達一年は一斉に二人を見た。 「え? マジで? あーやっぱカナ先輩と光先輩マジで付き合ってんのかなぁ」  光さんはまるで奏さんが自分のものとでもいうように腰に腕を回していた。  奏さんは光さんに腕を回されても気にもしてないようで、書類に目を落としながら何か話している。  体が反射的に動いて、すたすたと二人のところへ俺は向かった。  光さんから奪うように、ぐいっ、と奏さんの腕を引くと、二人の視線が同時に俺に刺さった。 「修吾?!」  驚いて目を丸くするものの、俺の腕を外そうとはしない奏さん。 「奏さん、今日はもうこれで終わりですよね」 「あ、うん」 「俺も片付け終わりました。一緒に帰りましょう」  突き刺さるような視線を向けてくる光さんの視線を正面から受けながら言う。 「……へぇ、今日の奏、なんかやべぇなと思ったら、そういうこと」  光さんは少しの間目を眇めてからそう言った。  それから俺はその視線から奏さんを隠すようにして背を向けた。 「おい、修吾ぉ」  そのまま廊下に出ようとすると光さんに呼ばれた。 「奏、俺と話してるトコだったんだけど? 挨拶もないわけぇ?」 笑ってるような声だったが、振り返るとその目は笑ってなかった。 「すみません。自分の恋人にベタベタ触られるの俺、嫌なもんで」  光さんのきつい視線から目を逸らすことなく、俺が言い切ると隣で驚いたように奏さんが俺を見上げた。 「そのまま簡単にお前のもんになったと思うなよ」  光さん俺はそのまま奏さんを伴って背を向けた俺の背中に刃のように鋭い声が投げ掛けられたが、そんな刃は俺の背には刺さらない。 「失礼します」  振り返って俺はそれだけを返した。  どれだけの人間が奏さんに焦がれているかなんて、知っている。  でも、絶対に誰にも彼を渡さない。 ***** 「無理矢理連れて来ちゃって、すみません」  校門を出た辺りで今更かとは思ったが強引であったことを謝ると奏さんは 「大丈夫だよ」 と、笑ってくれた。 「まだ光に修吾と付き合ったこと話してなかったから結構驚いてたね」  あー、とうとう言っちゃったー明日からからかわれるなー、と続けてけらけらと笑った。 「もー、それにしてもお前も光も冗談きっついよ。マジかと思って一瞬驚いちゃったじゃん」  そして、そう言ってバシバシと俺の肩の辺りを叩く。 「何か食って帰ろうぜ? モス? それともラーメンにする?」  奏さんがキラキラした笑顔で俺を覗き込んだ。 「奏さん」  俺が言うと 「え? 何? 別なもんがいい? ファミレスにする?」 意味を勘違いした奏さんが目を瞬かせた。 「俺、奏さんが食べたいです」  勘違いされないようにはっきりと言うと、見る見る間に彼の顔が赤く染まった。 「なっ……何言って……」 「だめですか?」  俺が年下の特権をかざして悲しそうに言うと、奏さんはううっ……と唸って、それから小さい声で。 「……昨日お前んち泊まったばっかりだから、2日連続外泊は無理……10時には帰らないと……」 「わかりました。10時に奏さんのお家に着くように送りますね」 「それと……っ」  思わずにやけた俺の声に重ねるように。 「……何て言うか……その……まだジンジンしてるから……最後まではむり……かも……」  なんて、俺の制服の裾をそっと引っ張りながら言うもんだから 「ぜ……善処します……っ」 そう言った俺の声は少しひっくり返っていたかもしれない。  オレンジ色の夕日の中で少しだけ指先を絡めながら、早く二人きりになりたくて歩みを速めた。 おわり★
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

710人が本棚に入れています
本棚に追加