皆の憧れの人は俺の恋人です

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 漆黒の髪に175の俺が見上げるほどの長身。剣道部の部長と生徒会長を兼任してるだけあって、がっしりとした体格。  その席に相応しい王様のような男は俺を見てほんの僅かに凛々しいその目を眇める。 「カナ先輩、差し入れありがとうございます。ここ座って下さい」  俺に声をかけたのはその男ではなく、男の隣に座り作業していた現在の副会長の蓮だ。蓮はにこやかに俺に挨拶すると、そっと席から立ち上がって自分の席を譲ろうとする。  「ありがとう、蓮。でもすぐ帰らなきゃいけないから、立ったままでいいよ。修吾、これクリームパンだから後で皆にあげて」  蓮をそっと制してから、会長の席に座る修吾の机にビニール袋を置く。 「ありがとうございます。奏さん。ゆっくりしていけないんですか?」  腹の底に響く低音。年下とは思えないくらいの落ち着き。出会った頃はもう少し可愛げがあったのにな。 「この後予備校なんだよねー、受験生は辛いよー」  ふざけて泣く素振りをして見せると、蓮が笑った。 「あはは。もー、カナ先輩は相変わらずなんだから。カナ先輩来てくれると明るくなるからもっと来てくださいよ」 「ばーか、漸くうるせぇ先輩いなくなってお前らの代になったのに先輩が四六時中来たら面倒くさいだろ。これでも気ぃ使ってんの。明るいのは蓮がいてくれるから此処の雰囲気が悪くなる心配はしてないよ」  そうやって蓮の頭もくしゃくしゃと撫でてやる。 「カナ先輩ならいつでもみんな大歓迎です。ね、修吾?」  蓮がちらりと修吾に視線をやると、あぁ、と寡黙な男は蓮と視線を合わせたのち、相槌を打った。  二人は実にバランスのいいパートナーだ。明るくてよく気がつく蓮と寡黙だがリーダーシップに長けている修吾。この俺がぴったり合いそうな二人だと思って探してきて選んだのだから、間違いない。  自分が二人を推したというのに、あまりにぴったりな二人にチリチリと胸の奥が痛むほどだ。  同い年の二人はいつも一緒なのが羨ましくて今の俺には少し眩しい。  そのときガラリと生徒会室のドアが開いた。 「おい、奏!もう行かねぇと遅れるぞ」  去年の生徒会長で俺の相棒兼親友の光が顔を覗かせたが、後輩達に挨拶する隙も与えないほどすぐに廊下をスタスタ歩いて行ってしまった。 「待って!光!今行く!」  俺は慌てて叫んだ。庶民の俺と違って光は予備校まで送迎してくれる車が校門まで来る。ついでに庶民の俺も乗せてもらうのだ。置いていかれたらこの時間じゃ遅刻は避けられない。 「ごめん、じゃまたな。みんな仕事頑張って!」  急いで行かないといけないにもかかわらず、思わず名残惜しくてちらりと視線を遣ると 「奏さん、今度は時間あるときにゆっくり来て下さい」  落ち着いた修吾の視線とぶつかった。  出会ったときからお前は一体何歳なんだと聞きたくなるほど落ち着いている彼だが、俺が仕事を教えてやっていた頃はもう少し可愛げがあった。カナ先輩、カナ先輩ってあいつだってみんなみたく連呼してたのに。  隙のない男の少しも緩められることのないきっちりと締められた制服のネクタイに視線をずらしてから。 「おう、じゃあな」  軽く手を振って部屋を出ると、カナ先輩また来てね!絶対だよ!廊下にまで可愛い後輩たちは出てきて見送ってくれる。  予備校に行くだけなんだけど、と苦笑いしつつ先を急いだ。  小走りで廊下に出ると少し先のところで光が待っていた。 「なんだ、此処で待ってくれてんなら、皆に会っていけばよかったじゃん。元生徒会長」  軽く光の肩を小突きながら言うと 「もう会長は俺じゃねぇからなー、俺は俺が一番偉くねぇとこは行かねぇ主義」  校内にも校外にも山のようにいるというファンが卒倒しそうな顔で光は笑った。 「なんだよ、それ。みんな光が遊びに行ったら喜ぶのに」 「そうか? 奏だからあいつら大歓迎なんだろうが。中々冷たいやつらだって学校中で大評判らしいぞ」 「みんな格好いいからね。一々優しくしてたらキリがないんだろ。俺は直属の先輩だったし話しやすいだけで、みんなお前をちゃんと尊敬してるから喜ぶって……どした?」  俺と話しているのに視線を後ろに飛ばした光に尋ねる。 「いや……それより時間ねぇぞ」  少し笑った光が促すように俺の腰に腕を回した。
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