皆の憧れの人は俺の恋人です

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「奏、お前今日勉強しに来る?」  予備校の授業が終わって荷物を纏めると隣に座っていた光が立ち上がりながら尋ねてくる。  金曜の夜。予備校でもばっちり授業を聞いてヘロヘロだ。  光の家でしゃべりながら勉強するくらいが丁度いいかもしれない。家に帰って一人で勉強しても疲れと寂しさでいらぬことばかり考えてしまいそうだ。 「あー、行こうかなぁ」  俺がそう言うと連れだって予備校の狭い廊下を歩いた。  光の纏うオーラが鋭すぎるお蔭で誰からも話し掛けられることなく予備校を出ることができた。  ちらりと光を見遣ると 「お前、俺のこと人避けに便利だと思ったろ」  視線だけ俺にちらりと向けて光が言う。あいつとはまた違ったとんでもなく整った顔の男がやると、視線を動かすだけで絵になる。 「バレた?」  ふふ、と笑ってそう返事すると、軽く小突かれた。 「無駄に愛想振り撒いてっからだろーが」 「無駄じゃないし。 それで円滑にやれてるんだから、いいだろ?」 「円滑、ねぇ……」  光は意味深長に笑うと、予備校の前に付けられた黒塗りの車から光の家の運転手が運転席から降りてきて車のドアを開けた。 「すみません、ありがとうございます」  そう言って光の後に続いて車に乗り込もうとしたそのとき。 「うわっ」  ぐいっと腕を引かれて体が後ろに傾いた。 「何やってるんですか。奏さん。浮気?」  言葉こそ丁寧だったものの乱暴に腕を掴まれて振り返ると、黒いパーカーのフードを被った男がやや血走った瞳で俺をじっと見ていた。 「修吾……?!」  いつもきっちりと寸分の乱れなく着こんだ制服の姿や、剣道をするときのストイックな袴姿とはイメージが大分違う私服に身を包んだ修吾に俺は腕を強く掴まれていた。   そんなに小さいわけじゃないのに、修吾の大きい手で掴まれると自分がひどく華奢になってしまったように思えた。 「行きますよ」  有無を言わせず俺を掴んで歩きだそうとする修吾。 「おい、俺に挨拶ねぇのかよ、修吾」  車の中から聞こえてきた光の声。 「ないですね。自分の恋人狙ってるヤツに挨拶するほど俺お人好しじゃないんで」  修吾は光の返事を聞く気もないようで、俺の腕を掴んでグイグイ歩いて行く。 「わ……悪い、光っ……またな!」  叫ぶ俺を引き摺るように歩く。修吾の広い背中がすごく怒ってるみたいだった。  
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