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皆の憧れの人は俺の恋人です
side:奏
先月無事に副会長としての役目を終えて高校2年生の後輩に役職を引き継いだばかりではあるが、生徒会室のドアをガラリと開けた。
「みんな、頑張ってる?」
俺が声を掛けると室内の視線が一斉に俺に向けられた。
「わ、カナ先輩!」
もう日が暮れたにも関わらず、 この生徒会室だけは煌々と明かりが点いていた。来週の体育祭の準備に追われているのだろう。
忙しいところだろうに、生徒会の後輩は皆手を止めて満面の笑顔で迎えてくれる。俺の可愛い可愛い後輩達。
「カナ先輩今日は予備校ないの?」
「カナ輩受験勉強大変?」
「カナ先輩の好きなイチゴのポッキーあるよ食べる?」
「カナ先輩いないと生徒会寂しいよー」
可愛い後輩達が一斉にわらわら寄ってくる。
世話好きなこともあって此処にいる後輩全員に懇切丁寧に生徒会の仕事を教えたつもりだ。生徒会のものだけに留まらない悩み相談なんかにも乗ったため後輩達はみんな慕ってくれるのかもしれない。生徒会に選ばれるだけあって、みんな可愛いというより格好いいのだが、とにかく俺にとって可愛い教え子兼後輩達なのだ。
副会長を務めていた俺の相棒でもある生徒会長、光は頗る仕事は出来る上にカリスマ性を備えた男であったが、如何せん優しく後輩にものを教えてあげることが出来ない男であったので、後輩を育てるという仕事は俺が一手に引き受けていたのである。
表に立つ仕事は苦手だけれど、生徒会の雰囲気を良くする役目は果たせたんじゃないかな、と思っている。
「予備校はこの後行くよ、イチゴポッキーなんてひさびさだな。ありがと」
ぎゅっと抱きついてきた後輩の頭をポンポン撫でてやりながら答える。
「もっと遊びに来てよー、カナ先輩いないと寂しいよぉ」
絡み付いてくる後輩にそれぞれ励ましの言葉を掛けてやって、それから。
「今日はみんな頑張ってると思って差し入れ持って来たんだー!購買のクリームパン!」
ビニール袋に入った購買で大人気のクリームパンを掲げて見せるとわぁっと歓声が上がる。
「これ、昼休みに行っても全然買えなくないですか? カナ先輩どうやったの?」
「 実は購買の人に昨日から頼んで今日の分取り置きしてもらったんだ」
すごく嬉しかったので得意気に言うと
「すごい!カナ先輩じゃなきゃ購買のスタッフも取り置きなんてしてくれませんよ」
そう言って可愛がっていた後輩の一人がぎゅっと抱きついてくる。 俺も身長は175センチあるので決して小さい方ではないと思うが生徒会の面々は何故か平均身長が高いので、俺はそんなに大きくは見えない。ちょっぴり癪ではあるが弟のように可愛く思っているので、頭を撫でてやる。
「カナ先輩ー、めっちゃいい匂い。僕も先輩と同じ香水にしたい、どこの?」
尋ねられて、俺は「んー」とちょっとだけ考えてから
「それは企業秘密」
と答えた。可愛い後輩の願いなら教えてやりたい気もするけど、これはアイツが大好きな匂いだから。俺以外の匂いにうっかりうっとりされたら悲しくなっちゃうから、教えられないんだ。意地悪な先輩でごめんな。
「受験勉強大変なのー? カナ先輩元々細いのにまた痩せた?」
「ひゃっ」
別な後輩に腰を掴まれて思わず驚いた声を上げてしまう。
「ほんとだ、 カナ先輩女の子よりウエスト細いんじゃない?」
「んなわけあるか!身長そこそこあるんだぞ、俺」
そんな遣り取りをしていると、うなじの辺りにチリ、と視線を感じたのでそっと後輩の手を外す。
「クリームパンはお前らのリーダーに渡しとくから、キリいいとこまで終わったヤツから取りに行ってな」
そう言って部屋の一番奥の生徒会長用の大きいデスクまでゆっくり歩くと、一番上に立つものが座る場所にぴったりの男が顔を上げた。
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