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雪の女王と満月の日
今日は早く帰らないと……朱音は時計を確認した。
確か今日の日の入りは16時40分前後、出来る事ならもう少し早く帰っておきたい。
「朱音、今日ってあれだよね。準備はしてある? マズそうだったら送るよ?」
昼食にはかなり遅い時間ではあるが賄いのピラフを口に運びながら、店主の永春 靖彦が尋ねた。
親しげな口調には雇用関係以上の親密さがある。
「問題ありません。靖彦さんの手を借りるまでもなく、自分で対処できますので」
機械の様に感情のない口調で彼女は吐き捨て、自身も賄いの最後の一口を口に運んだ。
「そう。でも何かあったらすぐに言うんだよ。君にもしもの事でもあったら、僕は姉さんに殺されるからね」
「いくら母でも殺しはしません。そこまで気を回すなんて、御苦労な事ですね」
はっ と軽く鼻で嘲笑ってコンソメスープを飲み干すと、小さな声でごちそうさまでしたと呟き、食器を片付け始めた。
朱音の叔父に当る靖彦は、40を目前にしてはいるが未婚故か若く見えて、どこかカピバラを思わせる呑気さと愛嬌がある。
造作は整っているというのに、纏う雰囲気というか空気感がそう感じさせるのだ。
そんな彼は姪の悪癖を気に掛けていた。
性格の悪い娘ではないのだが、どうにも素直になれず悪態をついてしまうのだ。
いわばツンデレのツンが強すぎる状態で、人から誤解を受けやすい。
虚勢を張るというか、とにかく当たりが強い。
子供の頃から注意はしていたのだがどうにも治らず、実は気に病んでいるのを知っている為にこちらとしても強く言えずにいる。
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