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桜と吸血鬼
吸血鬼をご存知だろうか?
そう、テレビを点ければ毎日見かけるあの美人女優や見目好い人気俳優、その約3割にも及ぶ真紅の瞳の持ち主達の事だ。
彼等は血液を摂取するが、それは必須ではない。
生き物の体液という意味で言えば牛乳で事足りるし、人間同様の食事だって食べる。
それでも血を摂取する必要があるのは、病気等で極端に体力が落ちた時や怪我をした時。つまり回復能力を上げる必要性のある場合のみだ。
そのはずだが……夏目 聡は物陰に隠れて密かに嘆息した。俯くと自分の赤茶けた前髪が視界に入る。
「本当に良いの? 彼氏に怒られちゃうよ?」
「えー、だって夕陽くん疲れてるんでしょお? 血がないと倒れちゃうから仕方ないよぉ」
甘ったるい声を出しているのはミス・キャンパス、英文科の2年生。
ゆるく巻いたロングヘアは柔らかそうなブラウン、いかにも男ウケしそうな鎖骨の見える薄手のニットで、わざとらしく大きな胸を押し付けるように隣の男に寄り添っている。
彼女が先月から付き合っている彼氏は、某有名大学の医学部にいる大病院のお坊っちゃんだ。
絶対に離したくないカードだろうに、別の学校なら少しの火遊びなど気付かれないとでも思っているのだろうか。
「でもさ、りおちゃんに迷惑かけちゃうのは駄目。可愛いりおちゃんが怒られるのは、オレがやだよ」
王子様然とする色素の薄い男が真紅の瞳で見詰めると、りおと呼ばれた女は瞳を甘く潤ませて頬を染めた。
「人助けだもん、いいよぉ。それとも夕陽くんは私じゃダメ?」
「そんな訳ないよ。こんなに可愛いお姫様に迫られたら、オレだって困っちゃう」
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