桜と吸血鬼

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やけに色っぽい表情で真紅の瞳が、薄紅の唇が迫って、聡はぎゅっと瞳を閉じた。 暫く衝撃に備えていたが、降ってきたのは発達した犬歯……ではなくて(からか)うような声だった。 「なぁに観念しちゃってんの? オレ、ノンケよ?」 にやにやと人の悪い笑みを浮かべた夕陽は長い身体を退かして、隣に座り直す。 「いやぁ、聡ってば本当にカワイイねぇ。まるでウサギちゃんだよ」 確かに聡は比較的童顔だが、カワイイと言われる程ではないと思っている。 まあ高校の文化祭では、女装で何人かの男子を茨の道へ誘ったと評判だったのだが。 「くだらねぇ事やってねぇで、とっととメシ食えよ。次の経営学総論、外せねぇんだからさ」 正直焦った……ちょっと誂うつもりが、本当に襲われるかと思ったら動悸が治まらない。 聡は気付かれないようにわざと素っ気無い態度で応じた。 「あんなの出てれば文句言われないし、単位なんか取れるよね?」 「この前代返バレて、目ぇつけられてんだよ」 見抜かれないと高を括った代返だったが、頼んだ相手が悪かった。 様々な講義で代返を繰り返している要注意人物だったのだ。 七色の声を持つとかで、声色を変えては何人分もの返事を使い分ける。 一回300円で代返を請け負っていて、聡もそれを頼んでしまった。 教授に名前を憶えられてしまっては仕方ない、しばらくは真面目に講義に出るしかないだろう。 「そういえばさぁ、例の雪の女王? まだ追っかけてんの?」 夕陽の言葉に彼はぴくりと眉を跳ね上げた。 「朱音さんに近づいたら、お前でも殴るからな」 「鎧袖一触(がいしゅういっしょく)の雪の女王だっけ? そんなヤバい女のどこが良いんだか」
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