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鎧袖一触の雪の女王こと冬木 朱音は、大学近くの喫茶店の従業員だ。
カフェでなく喫茶店、と言う所にこだわりを感じるレトロな純喫茶で、年配の常連客で賑わっている。
彼女は艷やかな黒髪を一つに束ねた色白美人で常に桜の香りを纏っているが、その雰囲気は春には遠い。
美しい顔には殆ど表情が無く、一見すると等身大の人形のように見える。
くりっと大きく黒目がちな瞳はオニキスのように真っ黒で、ややツリ目なのにどこか可愛らしい。
細身の華奢な身体を制服であるスタンドカラーの白シャツと黒のパンツスタイルに包み、膝下丈のギャルソンエプロンで凛々しく仕上げている。
その可憐な美しさからお近づきになろうとする者は後を絶たなかったが、デレの一切無いツン……つまるところ物凄く冷たくあしらわれ、心も凍る程の扱いを覚悟せねばならない。
そこで付いた仇名が雪の女王。
ならば物理的にお近づきになろうという不埒な輩には、推定身長165センチの華奢な身体から繰り出されるとは到底信じ難い程の強烈な足技をお見舞いし、目下のところ無敗ときた。
だから鎧袖一触。
鎧の袖がほんの少し触れただけで相手を倒すほどの圧倒的な強さだと、日本史オタクの誰かが呟いたとかで、耳慣れぬこの言葉がこの近隣では一気に知名度を上げた。
両方合わせて「鎧袖一触の雪の女王」だ。
その名が知れ渡った現在、彼女にちょっかいをかけようなどという者は余程の物好きのみ。
そしてその物好きが聡という訳だ。
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