マリン・スノー

1/5
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

マリン・スノー

 その日は前の晩から大雪警報が発令されていた。  窓から見える景色は灰色の雲と白く霞んだ高層ビル。  大粒の雪が風に乗って街に降り積もる。     不意に――インターホンが鳴った。  ドアを開けるとそこにいたのは雪をかぶった配達員。 (こんな日に仕事とは彼もついていない) 「――――お届け物です」 (ネットで注文した荷物は全部届いたはず……?)  小首を傾げながらその荷物を受け取った。  小包みの差出人は――オトヒメ。  段ボールをテーブルに置いて小首をかしげた。 (オトヒメ? そんなふざけた名前――あっ!)  すぐに思い出した。  数か月前に釣りで訪れた小さな港町で出会った女性だ。  黒髪に透き通るような肌。なによりたわわなボディが心をくすぐる。  目元の不思議な色の泣き黒子が気になったが、田舎町では滅多にお目にかかれない美女だった。  全く魚を釣り上げることができなかった彼女に、仕掛けの作り方やロッドの扱い方などを手取り、足取り、教えてやったのだ。 『こんなにたくさんのお魚! ぜひともお礼の品を送らせてください』  魚と引き換えに自分の住所を教えたのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!