長靴を履いたスコの恩返し

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「猫は二十年生きると猫又になる。我は先日生誕二十周年を迎え、めでたく猫又となり、お主に恩返しをしに来る事が出来た訳だ」  二十年生きるとかどんだけ長生きだ。スコは特別な掛け合わせだから寿命が短い、とも彼女は言ってなかったか。というか、完全に外国猫のはずのスコが猫又って何だ。日本妖怪と西洋妖怪の垣根を軽々と超えて来るな。 「はいはい、わかったわかった。で、その猫又さんが俺にどんな恩返しをしてくれるんですか」  折角コンビニで温めてもらった麻婆弁当が、また冷えてしまうではないか。出来るだけ早くこの話を切り上げて、非現実じみた夢から覚めようとおざなりな返事をすると、猫又スコは、顎に手をやり、にやり、とやけにニヒルな笑みを浮かべてみせた。 「我はお主に人生を救われたからな。我もお主の危機を救ってやろうと思ったまでよ」  人生って。猫なのに人生って何ですか。俺の心の突っ込みも無視して、スコは先を続ける。 「お主は今、大きな悩みを抱えているだろう。それを解決しておいた。涙ちょちょぎれて我に感謝するが良いぞ」  恩返しの相手の意向も聞かずに事後報告ですか。ていうか恩返しに感謝するって堂々巡りになるんじゃないのか。俺のスコに対する脳内突っ込みが止まらない。 「それではな、義希。お主の人生が幸いに溢れる事を祈っておるぞ」  言いたい事だけ言い切って、スコはかつかつと長靴音を立て、片手を振り振り、二又に割れた尻尾を振り振り、アパートの階段を降りてゆく。
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