鳴いて

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鳴いて

 猫は、鳴くのをやめました。  鳴いて、鳴いて、喉がからからになりました。  喉の奥が張り裂けても、お母さん猫はお乳を飲ませてくれませんでした。  お父さん猫は、最初はいたけれど別のお家に行ってしまいました。だから子猫は、その顔を覚えていません。  子猫の身体は小さく、柔らかく、命は揺らいでいました。風にたゆたい、身体の先々は細く、雪のように冷たい手足。  しんしんしんしん。と、冬の音。 「おかあさま。お乳をちょうだい」  お母さん猫は他の兄弟にはやさしいのです。子猫は5人の兄弟の中でいちばん小さくなりました。  たっぷりお乳を飲んで、すやりすやりと眠っている兄弟たちの端っこで子猫は1人ぽとりとお水を流しました。それは、胸あたりをしとしとと濡らします。 「おなかがすいたよう」  ぐうぅっと、引きちぎれてしまいそうなお腹を自分で撫でます。お母さん猫は、兄弟たちと同じように静かに眠っています。  次の日、お母さん猫はお引越しをしました。今まで住んでいた神社から出て、川の近くに移動しました。
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