11人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
鳴いて
猫は、鳴くのをやめました。
鳴いて、鳴いて、喉がからからになりました。
喉の奥が張り裂けても、お母さん猫はお乳を飲ませてくれませんでした。
お父さん猫は、最初はいたけれど別のお家に行ってしまいました。だから子猫は、その顔を覚えていません。
子猫の身体は小さく、柔らかく、命は揺らいでいました。風にたゆたい、身体の先々は細く、雪のように冷たい手足。
しんしんしんしん。と、冬の音。
「おかあさま。お乳をちょうだい」
お母さん猫は他の兄弟にはやさしいのです。子猫は5人の兄弟の中でいちばん小さくなりました。
たっぷりお乳を飲んで、すやりすやりと眠っている兄弟たちの端っこで子猫は1人ぽとりとお水を流しました。それは、胸あたりをしとしとと濡らします。
「おなかがすいたよう」
ぐうぅっと、引きちぎれてしまいそうなお腹を自分で撫でます。お母さん猫は、兄弟たちと同じように静かに眠っています。
次の日、お母さん猫はお引越しをしました。今まで住んでいた神社から出て、川の近くに移動しました。
最初のコメントを投稿しよう!