白い影

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「熱くてかないません」  ずるずるとワイシャツを肩から落として、百々君はワインをごくごくと飲み干していく。だんだんと顔が赤らみ、頬も力なく緩んでいる。よほどストレスが溜まっていたのだろう。軍の愚痴を吐き出してきた。わたしはそれを同情と共感を持って受け止めた。 「すみません……少し飲みすぎました」  1時間ほど経った頃だろうか。酔いが覚めつつあるのか、百々君がそうもらした。いそいそとワイシャツを着て身なりを整える。わたしも、空になったワインの瓶をワイン蔵の隅に隠して置いた。ここにはわたししか入れない場所だから、気づかれはしないだろう。  千鳥足になりつつある百々君を支えながら、パーティー会場に戻る。主役が1時間半ほどいなくなり、騒然としているのではないかという不安は杞憂に終わっていた。皆、社交場を楽しみ、ゆらめくように踊っていた。誰もわたしのことなど気にはしない。それが酷く居心地よかった。  パーティー会場の真ん中まで来たところで、百々君が「あ」と言って駆け出した。肩を支えていた手を剥ぎ取るような手つきに、若干の不快感を覚えたのは言うまでもない。介抱したのは誰だと思っているんだ。そんな相手を無下にするなど、百々君の馳せた先は誰なのか気になって、目線を上げた。
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