初陣の勧め

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 乙女の初陣というには、酸いも甘いも知る熟れた身であるというのに、気持ちは初花を捧げるような心地である。 ――いやいや、違うでしょう。 落ち着け私、初花では駄目なのだ。 今宵はちゃんとしっかりリードせねば……。 ゴクリと喉を鳴らした。 出来るのか? 正直に言うと不安は満載だ。 今までを夫任せで御免なさいと陳謝したいほどだった。 だけど、少しだけ、こんなことは聞く人が聞けば鼻で嗤われることかもしれないが、幸せだと思うのだ。 私の初花を夫が摘んで、これまでの私の全てが夫のもので。 そういうのは、ちょっと、夫に護られている乙女(つま)である心地を味わえた。 ――ま、他なんて知らないから思うのかもしれないけどね。 でも、それで良いと思う自分でいられることが好きだった。  まるで禊のようにいつもより念入りにお風呂で身繕いをして、何かの儀式のように心して勝負下着を身に付けた。 ショーツの両端に付いたリボンの紐を愛らしく結わえる。 あまり甘すぎない薄紅梅の色味もだが、このリボンが決め手だった。 贈り物を意識して、まさに自身をラッピングしている気持である。 ――つ、突き返されないかしら……? 「……」 様々な不安や緊張が募り過ぎて、バクバクと鳴り響く心臓が喉まで出て来そうだった。 なんだかいてもたってもいられず、叫び出したくなる。 『!“&#$☆▼~っ!!!』 本当に清水の舞台から飛び降りた心地で、声にならない、否、してはいけない(夫が脱衣所に飛んでくるから)唸り声を上げて、私は独り蹲った。  寂しい夜を思い出す。  暗闇の中で、独り蹲る夫の背が浮かんだ。 自尊心を失い、苦悩に独りで耐えていた背だ。 「だって、夫はあんなに頑張ってくれたもの……」 あの時の夫を思い出すと、身体が強張る。 それでもそれは決して怖いからではなく、寂しくて堪らないからだ。  私たちは上手く妊活が出来なかった。 でも、もっと私が素直に、心のままに寄り添えていれば、本当は違っていたのではないだろうか?  あんなに、削られたような思いをさせずに済んだのではないだろうか?  夫は私の為に頑張ってくれているというのに、私はどうすることが正解なのか、ぐるぐると頭を巡らせるばかりで、臆病なあまりに何も切り出せなかった。 ――だから、今度こそ頑張るって決めたでしょう? だったら頑張れっ、私! 今度こそ逃げるな!!!  気持ちを整え、私は毅然として立ち上がった。 初花を捧げた頃のような瑞々しさは流石に無いかもしれないけれど、これが今の私の全力である。 ――さぁ、尋常に勝負っ!!!
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