初陣の勧め

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 俺はどう対応すればいいのか考えあぐねていた。  紀子の親父さんから、紀子に酒は飲まさない方が良いと念を押されて、確と聞いてはいたのだ。  てっきり、体質に合わないとかそういったことだと思っていたのだが、どうやらそうでは無かったらしい。    俺は今、紀子を前に正座をさせられている。 「真司さんの阿呆ぅ、もう、絶対に罰が当たる」 完全な絡み酒タイプ。 「ん、分かった。分かったけど、大丈夫なのか?」 「絶対に大丈夫じゃないです。そうれしょう?」 心配そうに、俺に顔を近づけて来る。 「いや、俺じゃなくて……」 「私は平気だもの、ばっちり大丈夫よぉ、ふふふっ」 ん、大丈夫じゃないな。 「これ、何本に見えている?」 俺は紀子の前で人差し指を振った。 「もうっ!そんな意地悪しない!」 がっちりとその指を握り込まれてしまう。 そして、まじまじと見つめること数秒。 「一本に決まっているでしょ」 腕を組んでどうだとふんぞり返る。 「不正だけど、正解だな」 「わ、私、真剣にお話し中です!」 「ぷっ、何か可笑しいけどな」 思わず可愛らしさに吹いてしまった。 ダメだ、何かツボって、堪えるのに腹が痛い。 「そんな莫迦にして……。あのね、今日はね……私ね――くぅ」 挙句に泣き上戸かよ。 「分かった、分かったから、落ち着こう。水持ってくるから」 「だ、ダメっ!!!」 立ち上がろうとした俺の服裾を掴んで離さない。 「行かないで、お願い」 あまりに悲壮な顔をしているから、何だか戦地にでも赴く夫になった気になってしまう。 「戻って来るから、な?」 頭を撫でれば、納得したのか静かになった。 「……」 「紀子?」 「そう思ってたの……でも、戻らなかった」 「?」 「母さん――」 次いで、かくっと身体が傾いで、俺は慌てて再び受け止めた。 「あ、危な……って、いきなり寝るなよ……」 親父さんが飲ますなという筈だと、俺は納得に頷いていた。
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