初陣の勧め

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 そして、彼の宣告通りに時は訪れた。  彼は私に覚悟をさせる期限を与え、そしてその覚悟に見合うべく場所を選んでくれたのだ。    ラブホテル――男女が情事を交わす場所。 そうというのは誤りで、正しくは男女が愛を契る場所というのが正解に思えた。  清潔感溢れる真っ白なシーツにはシミ一つなく、漂う空気は早春を思わせるような瑞々しい爽やかな香り。何ら不足が無いように充実したアメニティに、埃一つない調度品。  いかがわしさや背徳感を微塵も窺わせない、丁重にお膳立てされたその場所に、私は何だか感謝さえ覚えていた。  先程まで、ベッドの上で半ば放心状態にあった私は、彼の腕からようやくにして抜け出して来たのだ。    ビジネスホテルよりも広さのある浴室、指紋一つなく磨かれた姿鏡に映る自身は、もう生娘ではなかった。  歴とした大人の女性であると記されたように、浮かび上がる赤紫の内出血痕。  客観視したことで、結ばれたことを実感する。 私は嬉しさに笑みを零していた。 喪失感も後悔も無く、あるのは充足感。 彼は私を取り込み、私は彼を取り込んだ。 私たちは個々でありながら、個であることを望んだのだ。 これはその印――私は胸元のそれにそっと触れていた。
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