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「恋愛ごとに敏感な同世代の人は察してくれるんですけどね。あーなんだ俺の勘違いだったんだ、そうだよねごめんねって。でも恋愛から遠のいた頭の固い中年になると思い込みが激しくて手を焼くんですよね」
彼女の言葉に顔面蒼白となる。全身の血がさあっと足元に落ちていくような感覚。
「私はごく普通に生徒として先生に接しただけですよ。下手にてきとうに接して腹いせに成績落とされても嫌ですから。先生に特別な感情があったわけじゃないです」
親しくなったと思っていた。だからさっき自分の思いを彼女に。
「私がサプライズ計画してるのも知ってたんですね。だって仕方ないじゃないですか、他のクラス全員やるって言うんだから。うちだけやらないの変でしょ。あとね先生、サプライズやる事知っちゃっても普通は知らないふりするもんなんですけど。本当に空気読めないですよね」
自分のことだけ特別に思ってくれていると思っていた。だってあんなに優しく笑いかけてくれたじゃないか。
「もう卒業しちゃうからどうでもいいですけど。塩田先生って本当に――」
あんなことを言うあの女が悪いんだ。今までの会話や態度は絶対恋愛感情があると思わせるものばかりだった。勘違いさせたあの女が悪い。俺は何も悪くない。
自分が美人なことを利用して、体つきが他の女よりもちょっとスタイルが良いことを利用して、男を食い物にする最低な女だったってだけだ。全部全部全部あの女が悪い。
目撃者なんていない、誰も学校に来ていない。部活もとっくに終わっているからだ。遅くまで残っているのはいつも自分、他の教師はさっさと帰っているのを知っている。監視カメラもない、誰にもわかるはずがない。
そうやって八年間過ごしてきた。でもふとした時に彼女の存在を、気配を感じてしまう。夜寝ているときに耳元で声がしたこともある、学校に入ると彼女の笑い声が常に聞こえる。数年間は我慢したがもう八年目、耐えられそうになかった。
卒業式を行ったんだ、さっさと卒業してこの学校から出て行け。この世から卒業しろ。ここはお前の場所じゃない、死んでもなお学校にとどまるとか鬱陶しいんだよ。
「本当に鬱陶しいのは先生の方ですけど」
気がついたら図書室にいた。さっきまで体育館のすぐ外にいたはずなのに。驚いて辺りを見渡すとびくりと体を震わせる。彼女がいつも座っていた席、そこに見えるのは。
首をしめている時に見た、白目をむいた化け物のようなあの顔。忘れたくても忘れられなかった醜く歪んだ顔。
「いい加減にしろお! さっさとこの世から消えろよ!」
「ふふふ、あははは!!」
「何がおかしいんだこの野郎!」
「あっははは! ばーか! マジうけるんだけどぉ! いっひひひはははは!」
「黙れえええ!!」
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