たった一人の為の卒業式

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「卒業証書授与」  三月一日、高校の卒業式が行われた。普段生徒と悪ふざけをしている若い教師も、生徒たちからネタにされがちな高齢の教師も、皆正装して厳かな雰囲気で式を見守る。教師になって二十年以上、毎年見てきた光景だがあの日から複雑な思いを抱いて卒業式を見守っていた。  八年前に三年生の女子生徒が一人遺体で発見された。三年生はすでに自由登校に入っており学校に来る三年生はいなかった。しかし彼女は、あの子だけは毎日学校に来ていた。  理由は単純で図書室に通っていたのだ。市の図書館にはない珍しい小説がこの学校には置かれていてそのシリーズを何とか卒業式までに読み終えるという目的があった。図書室は教室がある棟とは違う別の棟にあり、その女子生徒が学校に来ているということを知っている人は少なかった。  そのため発見が遅れた。共働きである両親は運悪く二人とも出張で家に帰ってきたら娘がいない、連絡もつかない。学校に問い合わせたところ図書室の中で死亡しているのが発見された。死亡推定日時からは死後三日が経過していたと言う。首を絞められた明らかな他殺だった。  私立ではないため監視カメラ等が設置されておらず生徒であれば制服を着ていたら自由に出入りができる。つまり怪しい人間は入っていないということで内部の人間の可能性ではないかと噂された。教師や在校生などにも取り調べが行われたが、当時学校に来ている人は少なく結局有力な情報がないまますでに八年経過している。  教師の男は彼女の幽霊がまだこの世に彷徨っているという確信があった。ちょうど職員室から見える向かい側の棟、正面が図書室だ。夜一人残っていると誰もいないはずの図書室の電気が突然点いて、誰かが出入りするような影のようなものを何度も見た。図書室に行ってみても当然誰もいない、しかし彼女がいつも座っていた席の椅子、机との距離がほんの少し隙間が空いている。  彼女が亡くなった日付では必ずそういったことが起きた。もう八年だ。ばかばかしいかもしれないがお坊さんや霊能者を名乗る人を招いて見てもらったこともあるが、結局何も効果がなかった。霊能者はいかにもそれらしく彼女がまだこの世に未練があると思うのでその未練を断ち切ってあげる必要がありますよ、などと言ってきた。  彼女の未練などわかるはずもない。本を全部読み終わっているかどうかなど確認もできない。
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