たった一人の為の卒業式

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 そしてふと思い当たった。彼女は卒業ができていない。八年前彼女がクラス委員だったこともあって卒業式の日に担任の先生にサプライズをしようとクラスのみんなと計画をしていた。それができなくて未練が残っているのかもしれない。  だったら自分の手で卒業式をあげてあげよう。そして彼女をあの世に送り出してあげよう。彼女の担任だった自分の手で。 「卒業証書授与。三年五組、柴田ありさ」  体育館の中には誰もいない。すでに春休みになり部活をやっていた生徒も全員帰っている。彼女が亡くなった時間、そのタイミングで卒業式を行っている。  卒業証書の内容を読み誰もいないところに卒業証書を差し出す。何をやっているんだという思いはあったがなんでもいい、とにかく彼女が成仏する方法を試したかった。  一通りひっそりとした卒業式を終えて教師は体育館を後にする。 「塩田先生に卒業式の日何かサプライズみたいのやろうよ」 「えー、私やだよ。つーかさぁ、あいつのこと好きな人誰もいないでしょ。ウザいしキモイし話長いし、授業もすごいわかりにくいしさあ。生徒の気持ち全然わかってない、何でこいつが担任なんだろうって一年間ずっと思ってたもん」  そんな会話が図書室から聞こえてきて足を止めた。生徒から好かれていない事は分かっていた。自分が授業をする時いつも生徒たちは眠そうだ。注意をしても先生の授業全然わからないんで後で自分で勉強しますと返って来た。誰もが冷めた目で自分を見る。  そんな中クラス委員である柴田だけは普通に接してくれた。美人で気さくな性格でとても勉強家で。読書も好きで今時の子は読まないような文豪の小説を数多く読んでいたようだった。  馬鹿にしてくる生徒も何もかもが嫌だったが柴田がいてくれたから毎日頑張れた。その上卒業式の日にサプライズをしてくれると言う。本当に嬉しかった。最高の卒業式にしようと思った。  三年生は自由登校になっても柴田が学校に通っていたことを知っていた。何度か声をかけて会話も弾みだと思う。二人きりになる時間も多かった。 「私はたぶん誰とでも仲良くなれるんです。自分の顔は自覚してます、まあまあ良い方ですよね。だから男の人ってすぐに勘違いするんですよ。こいつ俺に気があるんじゃないかって」  小説を読みながら顔もあげずにそんなことを柴田が言った。
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