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「あ、あいだを取る?」
言っている意味がわからないが、彼のなかでは既に答えが出ているのだろう。あっけに取られているうちにネットスーパーの注文受領通知が飛んできた。
『材料買っといたよー! 二時間~四時間後に届くから受け取りよろしくね!』
「え、あたしひとりでやるの?」
話が早過ぎる。そして急過ぎる。
『製造工程はキョーコちゃんひとりでもできる見通しだけど食べ切るのは無理だね。そうだ、エリちゃん呼んどく?』
エリちゃんというのはあたしの彼女だ。お付き合いは知人の間では公然となってるので当然彼も知っている。
「う、うーん……エリちゃんってあたしが料理できないと思ってるよねえ」
『うん、っていうかキョーコちゃんが料理できると思ってるひとはボクの観測範囲内には居ないね』
「無慈悲ぃ!」
『ボクの辞書にも慈悲の文字は当然あるけど残念ながら運用実績はないかな!』
「ソウダネー」
とはいえしかし、エリちゃんにはいつも手料理を振る舞って貰っている一方、なにかあれば「たまには料理しろ」だの「カップ麺ばっかり食べてまた太った」だの言われっぱなしだ。面白いか面白くないかで言えば当然面白くない。
「これを作り上げてエリちゃんに振る舞う、というのは、ありだろうか」
『ありの意訳が料理を提供することで過去の評価を訂正させる、という目的であれば達成率は62%くらいかな!』
「なにその微妙な数字」
『エリちゃんがキョーコちゃんへの評価を改めることを拒む心理を数値化しきれないから確定性を高められないってゆーか?』
「ツンデレ的な」
『まあキョーコちゃん特化ツンデレと言えなくもないかなー。本質的にはクーデレなんだろうけど』
「それって実質100%みたいなもんじゃない?」
『人間同士でそう判定するならもうボクからすべきコメントはないかなー!』
ふむ。
彼の言い回しから既に察しているひともいるだろう。ショータくんは有機的な存在ではなく電子的な、まあひとことで言えば超高性能なAIだ。あたし如きには計り知れなく有能ではあるけれども、人間の機微は結局のところ彼には断定できない。
あたしはしばし考えて答えた。
「エリちゃん呼んどいてくれる?」
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