第1話 金星食

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第1話 金星食

 俺、鴇乃(ときの)すばるは、その日もぼうっと、空を見上げていた。  まだ暗い早朝の空はどこまでも清々しく、気持ちいい。その空に浮かぶのは、白く輝く三日月。  そして、その傍らに寄り添うのは──。 「──すばる!?」  ああ、この声は──。 「(せい)?」  スッとした立ち姿。百八十センチはあるだろうか。俺と並ぶと十センチ以上の差はある。  茶色っぽくて猫っ毛の俺とは違って、真っ黒の髪に少しだけグリーンの混じった茶色の瞳。凛とした眼差しは、幼い頃からちっとも変わらない。  北宮 清(きたみ せい)。  俺の幼なじみだ。  けれど、本当はそんな単純な言葉ではくくれない。 「どう…して?」  ここにいるのかと、尋ねてくる。俺は肩を竦めて見せると。 「だって、約束だったろ? ここで、金星食(きんせいしょく)見ようって。──忘れたのか?」  街から少し離れた、公園の小高い丘。  街の灯りが小さくなるから、夜空を見上げるのには丁度いい。  そこは、俺たちのお気に入りの場所で。 「──っ…」  清は顔をくしゃくしゃに歪めて、泣き出しそうな顔をすると。 「すばる…!」  その長い腕を伸ばして、抱きしめてきた。絞り出すように、俺の名前を呼んで。
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