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「確かに、カッコいいもんな? モデルとかって…。派手だし」
断ち切る。
一時はそこまで考えていたのかと、知らなかった自分にショックを受ける。
俺は隣にいたのに、まったくそんな清の心の動きにも気付かなかった。清は感謝してくれているけれど、俺は何も分かってはいない。
「断られて良かったよ。結局、俺はすばるだけが好きだって気付いたし。きっと真剣に付き合ってたとしても、上手く行かなかった。だって、本当に好きな奴がずっと傍らにいるんだ。形だけ他へ向けても、続くはずがない」
俺は膝に頬を埋める。
「俺、清の事、ちっとも分かってなかった…」
「それは、上手く隠してたからさ」
「俺、もっと清のこと、知りたい」
「すばる?」
「それで、判断する。もっとちゃんと清の全部を知って、どう思うのか。そしたらきっと後悔しない。って、するかもだけど、でも全部やりきれば納得はできるから…」
「どうやって知るんだよ?」
清の問いに俺はガバリと顔を上げると。
「ここに遊びにきていいか?」
「…って、それは──」
「じゃないと、清の本当が分からないだろ? 家にいたんじゃ半分も分からない。清は俺の事全部知っているくせに、俺は知らないなんて、フェアじゃない」
「んだよ。それ…」
「明日、コウさんに許可貰って遊びにくる。清は気にしなくていいから」
「気にするって。ここ、他にもいろんな奴出入りするし」
危ないんだよな、と清はつぶやくが。
「俺の事、構う奴なんて早々いない。クラスの女子にだってモテた事ないのに…」
「この前、告白されてた。あれ、受けたのか?」
「あ、あれは! 生まれて初めてだったし。断った。だって、俺、そんなつもりなかったし…。てか、清なんて何倍も告白されてきただろ? それくらい、俺なんて興味持たれてないんだ」
「…違うと思うけど」
清は気に入らないと言った表情で見返してくるが。
「いいから。俺はお前に返事するためにそうするんだ。邪魔するなよ?」
「ったく。好きにしなよ。けど、コウか俺がいないときは帰れよ? コウ、ここでサーフィン教室開いてるから、いろんな奴が出入りするんだよ。昼は外のテラスでランチ提供してるし。たまにだけどやばい奴もいる。気をつけろよ?」
「分かってる。けど、何度も言うけど、俺みたいなガキ、だれも気にかけないと思うぞ?」
誰が見ても目を惹く清と違って、俺はどうみても、その辺にいる冴えない高校生だ。
少し茶けた髪が癖毛のせいで勝手にあちこちに向かって跳ねている。お世辞にも自分が誰かの気を惹くとは到底思えなかった。
清は分かっていないと呟いて髪をかきむしっていたが。
「もう、今日は寝よう。明日は休みだし」
「な、サーフィンって、お前もできるのか?」
「…少しなら」
「なあ、じゃあ、明日教えてくれよ。…用がなければだけど」
清は苦笑すると。
「いいよ。明日はなにも予定ないし。ただ、まだ海水が冷たいから少しだけな?」
「おう!」
すっかりご機嫌になった俺に、清は肩をすくめるようにして。
「お前、俺に返事すること忘れるなよ? なかったことにはできないんだからな?」
「分かってる…」
「じゃ、寝よう」
清はベッドサイドのライトだけにすると、室内灯を消してしまう。部屋が柔らかい光だけとなり、いっきに眠気を誘う。
「そっち、詰めて。すばる、寝相悪いから落ちるだろ?」
先にベッドへと押しやられ、布団をはぐっていると、清が背を押してきた。
「よく分かってんな?」
「だって、昔っから落ちてただろ? ベッドセミダブルだけど、やっぱ、高校生二人が寝ると狭いし」
押されて、壁と清とに挟まれる形となる。横を向くと、清がこちらを見つめていた。
暗がりにその目がキラリと光って見える。
「なんだよ?」
「好きな子がそれを知って、逃げもせず、隣に寝てたら、ちょっとは期待するだろ?」
「っ! なに言ってんだよ! 俺はまだ答えて──」
すると、清は不意に腕を伸ばし、俺の頭を胸へ抱え込んだ。
「ちょ! なに?」
「顔見てると襲いそうになるから。こうしていれば見えないだろ?」
そうだろうけれど。これでは俺がドキドキしてしまう。身体つきが大人に近い、ひとつ年上の清をこういう時に感じてしまう。
「昔はだっこして眠っただろ? いろいろ考えてないで寝ろよ」
「…寝られるかよ。バカ」
「おやすみ。すばる」
そう言って、清はあろうことか、少し腕をゆるめると、顔を上げた俺の唇の端にキスを落とした。
「?!」
「…さっき、嫌な思いをしたんだ。すばるで打ち消したい」
「さっきって、進──」
言おうとした名を、再びキスで塞がれた。今度はしっかりと唇に落とされる。軽く押し当てただけのそれはゆっくりと離れ。
「おやすみ」
ふっと笑んだ清はとても幸せそうな笑みを浮かべていた。
そんな清に怒ることもできず、俺は大人しく清の腕の中で眠りについた。
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