第6話 思い

2/3
前へ
/30ページ
次へ
「清は君の事、真剣なんだよな。進士の事も、もとは君を忘れたかったからって聞いた。アイツが清にちょっかいかけてたら止めるからさ」  ちなみにその後、進士はコウによって家から早々に追い出され、自宅マンションへと帰って行った。  だから、ここに泊まることはない。マナも何かと気を利かせてくるから助かっているのだ。  俺のいない間、清になにかあったらと気が気ではなかったのもあって、それは助かっていた。  いや。清が進士を好きで合意のもとなら別に俺の出る幕じゃない。  けれど、清は俺を好きだと言ってくれるし、進士の行動を迷惑と思っている様だし。 「でも、俺、まだ何も清に答えていないし…。色々言える立場じゃ」  すると、コウは俺の頭をクシャリと撫でてきた。大きな手の向こうに人なつこい笑みが見える。 「君は、清の事を知っても嫌ってはいない。それは、清にとってとても嬉しいことだと思うよ。付き合う付き合わない以前にね。もし、二人が上手く行かなかったとしても、清にとってそれは一番の財産になるだろうな。だって小さい頃から大好きだった幼馴染に認められるってことなんだからさ」 「コウさん…」  そう。俺は清を嫌うことはない。何があろうと清は清だ。これは初めにも言ったことで。  ここで今まで目にしたことのない清を見続け、それでも、新鮮さを感じはしたけれど、嫌う要素は一つもない。  逆にここで清が生き生きとしていられたなら、それで良かったと思える。 「コウ! 何してんだよ」  気が付くと清がこちらに怖い顔をして向かってくるところ。どうやら談義は終わったらしい。 「えぇ? いいじゃん。いっつもお前がべったりで話すチャンスもなくてさ」 「コウとなんか話さなくったって問題ない。すばる、こっち来いって」 「清?」  腕を引っ張られ、コウから引き離される。  そのまま引きずられるようにして、テラスからは陰になる家の横まで引っ張って行かれた。  途中、通り過ぎたテラスには幾つかテーブルが置かれていて、チラホラとランチを取る客の姿がある。  キッチンでは湊介がマナとともにあわただしく動き回っていた。マキもその間をかいくぐり、給仕に余念がない。  コウはコーヒーなど入れつつ、サーフィン教室の受付や、教室自体に出て行って、たまにここへ戻ってくるのが仕事だった。  教室といっても、一度に教えるのは二組程度。それもスパルタではないから、気楽に参加する人達が多い。  とりあえず、サーフィン入門編なのだそうだ。もっと真剣に習いたい人がいれば、他を紹介しているらしい。そのため、ここは知らない人物の出入りも多かった。 「なんだよ。話してたのに」 「コウは馴れ馴れしいんだよ。湊介さんも見てるってのに…」  清は不機嫌だ。こんな顔を見せるのも、ここに来てから。家や学校にいる時はここまであからさまに負の感情を表には出していなかった。  ちょっと困った顔をして笑んで見せたり、僅かに沈黙したりそんな程度。  そんな清を知るのは、確かに新鮮だった。  そして、その両方を知る自分に、優越感も増す。俺はどちらの清も知っているのだ。 「んだよ。嬉しそうな顔してさ」 「いや。あれだ。なんか、こんな清を見れて得したなって」 「得?」 「うん。両方知ってるお得感」  俺がホクホクした顔をしていれば、清は呆れたようにため息をつき。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加