88人が本棚に入れています
本棚に追加
「っとに。緊張感ないな。俺は毎日、お前に幻滅されるんじゃないかって、気にしてるってのに…」
「幻滅なんてしてないって。逆に目が離せないって言うか、新たな発見にますます清のことが──」
「俺の事が?」
ふと視線を上げると、清が嬉しそうな顔をして俺を見つめている。それを認めて思わず頬が熱くなった。
「…別に」
「なんだよ。その先、言って見せろよ。な? もう、本当は答えでてんじゃないのか?」
「んなこと──」
と、清がくいと俺の顎と取って上向かせた。家の壁が直ぐ背後にあって、逃げるすきがない。
「なぁ。いつ、答えだせそうなんだ? 急かすつもりは無いけど、そんなに待てない…」
強い光を放つ清の目に、俺は思わず答えていた。
「あれ! 金星食! 今度の金星食の時までには…」
「金星食…」
「来週の日曜日」
「確か、すばる、見たいって言ってたもんな。…いつもの公園で見るんだよな?」
「その、つもり」
「金星食、始まるのはいつ?」
「午後八時…」
「じゃあ、来週日曜日の八時。それでいい?」
「うん…」
清は俺の顎を捉えたまま、見下ろすと。
「な、本当はもう答え出てない?」
「え…?」
思わず聞き返せば。
「だって、すばる。俺がこうやって手を出しても本気で逃げない。キスだって受け入れてるだろ? 男にされるのがいやだったら、即座に振り払ってるはずだ。お前、嫌な事にははっきりしてるから。…俺に触れられるの、嫌じゃないんだろ? それって答えじゃないのか?」
「……」
確かに。これがろくに知りもしない相手からだったら、俺はその手を振り払い、胸を突き飛ばしていたことだろう。
だって。相手は清だ。嫌も何も──ない。でも、それって…?
俺は、もう受け入れているのだろうか。
清の唇が、僅かに開いた俺の唇に重なる。見開いた俺の目を見つめながら。
「…日曜日までに良く考えておいて」
柔らかく触れて、僅かに舌先が唇を舐めた。それだけでゾクリとした何かが背に這い上がる。
「……っ」
清は俺をすっかり抱きしめると、その耳元で。
「俺は、すばるが好きだ。ずっと昔から。思いは誰にも負けない。それに、誰にもすばるを渡したくない。俺の事、少しでも嫌じゃなかったら…前向きに考えてくれるか?」
俺はもう、頭の中がパンク寸前で。ただ、清の言葉にこくこくと頷くことしかできなかった。
そう。俺は星を見るのが好きだった。
親が俺にすばるとつけたのも、きっかけかも知れない。
家から少し行った先にある、小高い丘にある公園。そこが俺の天体観測場所で。
月の出ていない夜、何度かある誕生日とクリスマスを全て我慢し、親に買ってもらった望遠鏡を背負って。
もちろん、傍らには清がいた。初めのころは病弱だった清を心配していたが、気が付けば逆に清が俺のボディーガードよろしくつくようになって。
確かに夜の公園は、違う目的で利用する輩もちらほら見かけ。小柄な俺に比べ、年を追うごとに成長していった清は、中学も半ばになると身長も伸び一見すると大学生くらいには見えていた。
そんな心強い清とともに、月に何度か公園に出かけ夜空を見上げていた。
あの頃から、清は俺を好きだったのだろうか?
何か、そう思うと胸が苦しくなるような、切なくなるような。甘酸っぱいとでも言うのか。そんな感情が湧いてくる。
もう、その時点で、日曜日の答えが出ている気がした。
最初のコメントを投稿しよう!