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第9話 海からの便り
いよいよ、日曜日。
俺は待ち合わせの時間まで、清とは顔を合わせないことにしていた。
なんだか、告白前に会ってしまえば、そこで余計な事を口走ってしまいそうで。
代わりに気持ちを落ち着かせるため、海に来ていた。何時もの自転車を自分の脇へ横倒しに置いて、鈍色の海を眺める。
その日は晴れているのに波が高く、一見すると穏やかにも見えたが、遠くで白波が立ち、初心者が出てはいけない海況だった。
それは皆分かっているらしく、こなれたものしか海には出ていない。
俺もボードは持って来ていたが、海に出るつもりはなかった。入っても、波打ち際で少し水遊び程度のつもりだ。
なんかしてないと、落ちつかないな。
気を紛らわせるため、海に入り浅瀬を行ったり来たりを繰り返しているうちに、意外にぐったりしてしまった。我ながらアホらしい。
昼も間近。最後に少しだけ沖まで泳いで帰ってきた俺は、そろそろ帰ろうかと海から上がった所で人の騒ぐ声を聞いた。
見れば、数人の子どもが固まって沖合を見て騒いでいた。
「なに? どうしたの?」
俺の傍らを走り抜けた子供の一人に声をかけた。その顔は蒼白だ。
「友だちが、流されて! いま、大人呼びにいくの!」
それだけ言うと、子どもは駐車場へと駆けて行った。そこに親がいるのだろうか。
俺は急いで子どもたちが集まる場所へと足を向けた。
訓練も受けていない素人が行ってはいけない。
そう、どこかで聞いた気もする。
俺はそれでも持ってきたボードを手に、沖に出ていた。
「うっ…ぷ!」
俺も若干ひるむほどの波だ。俺のレベルじゃ乗れない波。
でも、今は波乗りが目的じゃない。
せてめて、ここへ乗せることができれば、息をすることはできる。
一か八かだった。
清。俺に力をくれ──。
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