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遠くでサイレンの音がする。
あの子は、ちゃんと浮いているだろうか?
流されても、ボードにつかまっていれば、きっと沈むことはない。
なんとか揺れる波間に子どもを見つけ、足にボードのストラップを括り付けてやった。これで、ボードと離れる事はない。
きっと助かる。
「大丈夫だから! 絶対、ボードを離すな!」
涙目の少年の細い背を、背後から支える。なんとか沖合から斜めに移動し、ゆっくりと岸を目指した。
俺、今日。清に会わなきゃいけないんだ。
間に合うかな? 岸についたら、直ぐに帰らないと。
大事な日なんだ。絶対に約束は破れない。
清。俺、お前が──。
「っ!」
大きな波に身体が飲まれる。手がボードから離れた。岸まではあと少し。
ゴボリと身体が海に沈む。俺はキラキラと光る青い海面を見上げた。
早く、上がらないと。
清に、言わなきゃいけないんだ──。
遠くで響く、サイレンの音。
俺の意識はそこで途切れていた。
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