第9話 海からの便り

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 あれから五年。  清は二十三歳となっていた。  大学も卒業し、大手出版会社に就職し。  忙しい日々を送るが、片時もすばるの事を忘れたことはない。  そういえば、明日、金星食だったな。  五年ぶりだった。  三日月の下へ金星がまるで飾りのように輝くのだ。すばると見る約束をした。  あの日の約束は、忘れたことがない。  結局、あの日。俺は見ることはなかったけれど。  すばるの母は、失踪宣言は申し立てていなかった。状況から見れば死亡も確実なのかもしれないが、まだ五年。もう少し、時間が必要なのかも知れない。  清は早めに仕事を切り上げ、約束した公園へ向かうことに決めた。  本当は、そこで告白の答えを聞くはずだった。  答えは聞かずとも分かっていた気がする。  だって、すばるはちっとも俺から逃げなかったのだから。  あの態度を見ていれば、断ることなどないと分かっていた。それでもすばるから聞くまでは確信が持てない。  もし、断られたなら。  その時は必死に泣き付こうか。せめて、お試し期間をと頼もうか。  すばると別れると言う選択肢はなかった。  あれこれ、妄想していたよな。あの時。  結局、すばるの遭難によって、全てなしになったのだが。  その後、サーフィンもやめ、コウの元を訪れるのもごく稀になった。  心を氷のように固めて、誰も受け入れなかった。  俺が受け入れるのは、すばるだけ。    駅の改札を出て、徒歩で公園に向かう。  実家からはそう遠くないが、今住んでいるマンションからはかなり離れている。  それでも、見に行こうと思えた。なぜかは分からない。行かないといけない、そう思えたからだった。  そして、今。  目の前にすばるがいた。  海で遭難する前の、まだ高校生のすばるが。 「なんで、泣いてんだよ?」  懐かしい声。  だって、だって君は──。 「俺さ、ちゃんと言う」  そう言うと、俺の肩を起こし、顔を覗き込んでくる。 「すばる…」 「俺は、清が好きだ。誰にも負けないくらい、好きだ」  笑顔でまっすぐこちらを見つめ、すばるは答える。 「俺も! 俺も──」  と、唐突に目の前からすばるが消えた。  空を見上げれば、すっかり月と金星が離れてる。金星食が終わったのだ。  ほんの僅かな時間。  どこがどうなったのか、あの時のすばるがここにいた。  まぼろしではなかった。  掴まれた肩にはしっかりと温もりが残る。  星が見せた奇跡だったのだろうか。 「すばる…」  あとは声にならない。涙があふれた。  とめどなく溢れて、枯れる事はなかった。
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