第2話 隠れ家

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 会わなくなる前と比べて、少し痩せた気がする。  気のせいならいいけど──。    取り敢えず、無事な姿を見られてホッとする。 「…清」  けれど、なんと言っていいのか。その後の言葉が続かなくて、掌を握りしめた。 「君、あれか? サチから連絡のあった?」 「あ、はいっ、鴇乃(ときの)すばる、です…」  これが、例のちょっと変わったと言う弟さんか。サチ叔母さんから聞いた名前は、嶋嵜(しまざき)コウ。年は三十八歳と聞いた。  日に焼けた肌に、色を抜いた金髪に近い、長めの髪を緩く後ろで結わえている。  出で立ちは胸元を広く開けた、白い麻シャツに、同じく麻のハーフパンツ姿。足元は革のサンダルだ。  見た目は確かにその辺の会社勤めの人間とは違ってかなりラフだが、言うほど変わってはいない気がする。 「へぇ。なんっか、キラッキラッしてるね? 君──」 「へ?」  ズイと叔父のコウが顔を近付けてくる。  涼やかな目付きが、清と似ている気がした。もう少し大人になれば、きっと清もこんな感じになるのだろうか? 勿論、顔つきだけだが。  清が緩いシャツにハーフパンツ姿は想像できない。コウの大きな手が俺の頬に触れるか触れないかと言う所で。 「これは、清が放っておかないのも、頷ける──、って! なんだよ? 足踏むなよ…」 「余計な事、言うな。それに、気安く触んなよ…」  清の表情が、更に険しくなった。 「ああ、そっか。ケンカの原因、それだもんね? 思い余ってつい手ぇ出しちゃったヤツ──ってぇな! っとに、叔父をもっと優しく扱え」 「……」  清はコウをいなした後、じとっと俺を睨み付けてきた。 「何で、来たんだよ?」 「何でって…。そりゃ、心配で…」  会いたくて。顔が見たくて。  しかし、清はついと目を反らすと。 「俺が…何したか、分かってんだろ? …どういうつもりでここに来たんだよ?」  「…どうって。いきなりいなくなれば、心配になるだろ? もう、一週間、連絡もなくて…」  清は深々と溜め息を吐き出すと。 「俺がお前に何しようとしたか、分かってるんだろ?」 「それは──分かってる…」 「いいや。分かってない。俺は無理やりやろうとしたんだ。自分がなにされそうになったのか分かってんなら、会いになんて来れるわけないだろ?」  それはそうだろう。一般的には。  でも、俺はちっとも嫌じゃなかった。いや、これだと語弊があるのか。  された行為には驚いたけれど、嫌悪感とか恐怖とか。そう言ったものは感じなかったのだ。それよりも、何よりも、清が隣からいなくなるのが怖い。 「…俺」  何とか気持ちを言葉にしようとするが、うまく出てこない。  すると叔父のコウが、パンパンと手を叩き。 「取りあえず、一時休戦。こんなとこで話さないで、中行こ。コーヒー淹れるからさ」  にっと人懐こい笑みを浮かべたコウが、俺と清の背中を押して、家の中へと促した。
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