第3話 告白

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第3話 告白

「すばる?」 「清に…触られても…嫌じゃない。…驚いたけど…、多分」 「本当に?」  清の問いにコクリと頷くが。 「だからって、全部オーケーって訳じゃなくて…。けど、このまま清とさよならするのは…嫌なんだ。俺の隣から、清がいなくなるのは…考えられない」  勝手かもしれない。けれど、これは俺の素直な気持ちだった。  清をそう言う意味で好きになれるのか。それが無理なら、傍らからいなくなるのに耐えられるのか──。  そのどちらも、今は選べない。全て考えての、今の答えだった。  向かいのソファに座った清がため息をつく。 「…俺のこと、全部じゃ無いにしろ、受け入れてはくれるんだ」 「うん…」 「気持ち悪いって、思わないのか?」 「だって、清のこと、そんな風に思えないよ…。清は清だし…」  清は長い足を組み直し腕を組む。しばらくじっとこちらを見つめていたが。 「…でも、俺は今まで通り幼なじみとして、すばるを見られない。あの時みたいに…触れたりキスもしたい。俺は…すばるがそう言う意味で好きなんだ」  真正面、面と向かってそう言われ、俺は一瞬、言葉をなくす。 「だから部活の子に告白されたすばるを見て、カッとなって…。でも、いつかははっきりさせなきゃいけない事だったから…」  好き。清が、俺を──。  その言葉を頭の中で反芻した途端、顔が爆発するかと思うくらい熱くなった。  それはそうだろう。そうでなければ、手も出さないしキスもするはずがない。けれど改めて言われると照れ臭くて仕方ないのだ。 「うわっ。すばる、真っ赤…」  それまで硬かった清の表情が笑みに緩む。久しぶりに見た清の笑顔に胸のうちがじんと熱くなった。 「って、そんなの面と向かって言われたことないしっ…」  アタフタとしだした俺に、清はため息混じりに。 「でも、どっちつかずじゃダメなんだ。俺は答えを出してる。あとはすばるが決めてよ」 「決める…。付き合うか、それとも──さよならか…?」  慎重に口にした俺に清は頷く。 「俺はすばると別れたくない。…けど、無理矢理付き合って貰うのはもっとごめんだ。気持ちが一方通行って事だしさ。それだと、お互い辛いだろ?」 「…うん」  頷いては見たが、心臓がバクバクいい始め、このまま止まるのではないかと思えた。  付き合うか、別れるか。二つにひとつ。今まで生きてきた中で、一番の選択だ。 「時間、かかってもいい。ちゃんと考えて出した答えなら…受け入れる」  そう口にする清の表情も辛そうに見えた。 「わかった…」  答えて膝の上に置いた手を握り締める。  勿論、一緒にいられなくなるのは嫌だった。辛いし寂しいし、悲しい。考えられない。けれど、自分の気持ちに嘘をついて一緒にいれば、きっと清を傷つける。    俺、答え。出せるのかな?  こんなに清が好きなのに。  そう。俺は清が好きだ。けれど、それが清のそれと重なるかは──分からない。  その気がないならきっぱりと別れを告げるのが相手の為だろう。そうすれば、清はまた次を見つけることができる。  次──。  そう言えば、さっきコウさんが、清は前に付き合ってた人がいたって言ってたな。  俺は…その相手の後、なんだろうか?  俺がここで振っても、きっと清は次に好きな人を見つけるのだろう。そうなれば、今までの清との記憶が、清の中では過去へと押しやられる。  俺にとって幼い頃から清と過ごした日々は大切な思い出で。清がいなければ俺の人生の彩りはこうもキラキラしていなかっただろうと思う。  忘れられるものではない。  それが──清にとってはただの古い思い出の一つになってしまう。  振ればそうなる。当たり前の事だ。  けれど、そう思った途端、急に胸が締め付けられる様になって、辛くなって。  まだ答えてもいないのに、清が遠い存在になってしまった様に思えた。 「すばる。取り敢えず先に部屋へ──」  ソファに座ったままの俺に、立ち上がりながら清が声をかけてきた。  先ほどまではここに泊まるつもりだったのに、このままここにいると悲しさと寂しさに押し潰されそうで。 「俺、やっぱり帰る…」  そう言うと、ソファから立ち上がって、背負ってきたバックパックを手に取り、足早にリビングを出る。 「すばる?」  清が怪訝な顔をする。俺は無視して玄関に向かった。  駅からバスに乗ったけれど、二十分程度だった。歩けない距離じゃない。駅に着けばまだ電車はあるはず。 「待てって…!」  清の声が追いかけて来るが、構わず玄関先で靴を引っかけると外に出ようとした。 「あれ? お出かけ?」  コウがリビングから顔を覗かせる。 「ちょっと、出てくる──」  清の答えている声を背に、玄関のドアを開けようとノブに手をかけると、勝手に向こう側へ引かれて、そこから三人の顔が覗いた。 「?!」  思わず後ずさる。  ドアの向こうには女性が二人に男性が一人。さっきコウが言っていたお客さんだろうか。  長身の女性は長い艶のある髪をかきあげこちらを見下ろしている。その女性の隣にはやはり長身の、でも傍らの女性よりは低い、金髪に染めたショートヘアの女性。日に焼けた顔が印象的だった。  そして、その二人の影から遠慮がちに顔を出すのは、女性陣より更に小柄な男性。黒髪にメガネの、真面目そうな印象の人だった。その人が。 「どうしたの?」  眉をひそめ俺の顔を覗き込んでくる。 「…なんでも…ないです…」 「でも、泣いて──」  その間を縫うように外へと飛び出した。
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