エピローグ

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感想なんてもうどうでも良かった。ただこうして一緒にいられることが、他愛もない事で笑い合えることが幸せだと夏生は心の底から感じた。 「うん、やっぱり似合ってる」 「ふふっ、本当かよ」 「本当だよ!だって…俺がなっちゃんのために見立てた打掛だもん。似合わないはずがない」 両手でそっと頬に触れ、優介は目の前にいる夏生だけを見つめる。 「凄く綺麗だよ」 その言葉に、夏生の瞳が揺れる。今まで幾度となく言われ続け、嫌悪しか抱かなかったはずのその言葉を、今は不思議なほど素直に受け入れることができるのは、きっとこれから先もずっと自分の隣にいてくれるであろう大切な人の言葉だからなのだろう。 溢れた想いは涙となって夏生の頬を伝う。それを拭う指先の優しさも、抱きしめる腕の力強さも、触れ合った胸から伝わる鼓動の音さえも、すべてが温かくて、心地よい。 風にのって窓の外からふわりと漂ってくる味噌汁の香りが新しい一日の始まりを告げる。今日もまた忙しくて平凡で、幸せな一日でありますように。そんなふうに願える事に感謝しながら、夏生はそっと目を閉じる。 約束の彼方に、今こうして二人は生きている――― 〈完〉
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