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11月。中庭の木々もすっかり紅葉し、美しい景観を形作っていた。しかし、中庭に向けられる夏生の目にはその景色は何一つ映っておらず、その美しさに意味などないかのように、ただ冷たく寒々とした空気が漂う。
優介が屋敷に来なくなってふたつきが過ぎようとしていた。もう二度と会うことはないかもしれない。そう思うと寂しさが胸に迫る。だけどそれでいいと思った。あんな醜態を晒して、どんな顔で会えばいいというのか。…会えるわけがない。あれほど好きだった読書も手につかず、ただぼんやりとした時間を過ごす日々が続いている。孤独は心をゆっくりと蝕み、ただ一人の友人を失った夏生は心の中にぽっかりと大きな穴が開いたような虚脱感を覚え、あの日以来笑うことができなくなっていた。
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