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自分が途中で投げ出した仕事が父の負担になっているのだろうか。優介は不安げに表情を曇らせる。
「そんな顔をするな。実は今日行ったお得意さんから聞いたんだが…あそこの旦那、どうもきな臭くてな。何でもお上さんには内緒で違法取引をしてるとかで…商人の間でも噂になってるらしい。せっかくの大口の客だから惜しいんだが、何かあってからじゃウチの評判にも関わるからなぁ」
「……」
優介は黙り込んだまま俯いた。真っ先に浮かんだのは店の事などではない。夏生のことだ。藤堂の屋敷に行かなくなって以来、優介はできるだけ夏生の事を思い出さないようにしていたのだが、優一の話を聞いてしまったせいで、どうしても考えずにはいられなくなった。
「なぁに、そんなに落ち込むこたぁないさ。そうだ、今日得意先で御新規さんを紹介してもらって…」
「ねえ父さん、屋敷にいた子に会った?俺と同じ年くらいの」
「え?…ああ、そういえば奥の間にいたなあ。座敷に座って中庭を見ていたよ。えらく青白い顔をしていたが、外には出てないのかね。ずっとあんなところにいたんじゃあ、気を病んじまうよ」
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