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〈第1部〉第1話
永華14年。武士を中心とする世の中は、徐々に変わろうとしていた。異国との交易が活発になり、武士に代わって商人や職人が力をつけ始めると、城下はこれまでになく活気づいた。人が動き、物が動き、人々の暮らしはより豊かになっていった。
…しかしそれは、中心地のほんの一部に過ぎない。多くの人々は城下から少し離れた土地に集落を作り、農業や漁業で僅かばかりの収入を得て生計を立てていた。
東山道にある中沼城下から西へ4里行くと、浦崎という地がある。この辺りにもいくつもの農村があり、人々は日々汗水垂らして働いていた。生きるために、必死に。
相沢の家もまた、そんな農村に暮らす貧しい一家だった。父の稔、母のキヨ、一人息子である夏生の3人家族で藁葺屋根の小さな一軒家に住み、日の出から日の入りまで畑を耕し、夜は遅くまで縄を編んで何とか生活していた。
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