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エピローグ
鳥たちのさえずりが聞こえてくる。障子窓の向こうから差し込む朝日を浴びて、優介はゆっくりと瞼を持ち上げた。気配を察して視線を移すと、鏡台の前で身支度をする夏生の姿があった。昨夜の情事で乱れた着物を着替え、襟元を整える後ろ姿に優介の胸は高鳴る。
「おはよう、なっちゃん」
まだ夢の中にいるようなぼんやりとした頭で声をかけると、夏生は振り向いて微笑む。その笑顔を見て優介は心の底から幸せな気分に包まれた。
「おはよ。よく眠ってたな」
「見てたの?もー、起こしてくれればいいのに」
恥ずかしさに頬を膨らませながら布団に潜り込む優介に、夏生はくすっと笑みを浮かべた。
「まだ朝早いし、もう少し寝てれば?」
「ううん、起きるよ」
そう言いながらも優介はなかなか起き上がろうとしない。そんな様子に夏生は呆れたように笑うと、布団の上に身を乗り出し、そろりと優介の顔に手を伸ばす。
「えへへ」
「何笑ってんだよ」
「だって嬉しいんだもん」
そう言うと優介は夏生の手を取り引き寄せ、甘えたようにぎゅっと抱きついた。子供っぽいと思われるだろうか―――そんな不安を他所に、優しく頭を撫でてくれる夏生の温もりを感じながら、優介はずっとこのまま時が止まってくれたらいいのにと願わずにはいられなかった。
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