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「それ、着てみてほしい」
「え?」
夏生が少し驚いたように声を出すと、優介は真剣な眼差しで見つめ返す。
「だって俺、なっちゃんがその打掛着たとこ見てないんだもん…!ちゃんと見たい!!」
興奮気味に詰め寄る優介に圧倒され、夏生は思わず吹き出してしまい、笑いをこらえながらコクコクと首を縦に振った。
「わかったよ。ちょっと待ってろ」
夏生は立ち上がって鏡台の前に立つと、打掛に袖を通す。花街を出てからまだそれほど経っていないというのに、既に懐かしさを感じるほど遠い昔のように思える。襟を整え、あの頃と同じように帯に簪を挿し、夏生はゆっくりと振り返って優介にその姿を見せた。
「どう、かな?」
少し気恥ずかしくて俯きがちに頭を掻く夏生だが、いくら待っても優介からの反応がなく、さすがに不審に思って顔を上げると、ぽかんと口を開けたまま惚ける優介の姿があった。
「……おいっ!」
「あっ!」
夏生の声に我に返った優介だったが、あまりに見惚れてしまったせいか上手く声が出せず、あたふたと慌ててしまう。その様子に夏生はまた可笑しくなって笑ってしまい、それにつられて優介も声を出して笑った。
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