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「これだけですかぁ?全然足りてませんけど」
狭い家の中に、徴収人の声が響く。耳につく甲高い声に、キヨは思わず体を強張らせて固く目を閉じた。
この年は雨が少なく、作物の出来も悪かった。それでも否応なくおとずれる税の徴収に、農民たちは苦しめられていた。
「最近日照り続きで作物が全く育たないんです。もううちには…これしか納められる物はありません」
家長の稔は僅かな米を手に徴収人に頭を下げ、キヨは恐ろしさに身を震わせている。そんな二人を前に、徴収人は大げさに溜息をつく。
「そう言われても困るんですよねぇ。食べる分を減らしてでも納めてもらわないと」
「そ、そんな…それじゃあ一家全員飢え死にしろと…」
「まあそういうことです。…あぁ、そういえば」
徴収人はわざとらしく手を打つと、薄笑いを浮かべながら家の中をぐるりと眺め渡した。
「相沢さんのとこ、息子さんいましたよね。確か…睫毛が長くて女子みたいな」
「!!どうか…どうかそれだけは!夏生は…息子はまだ11になったばかりで…」
「じゃあ明日までに今期分用意しておいてくださいね。また来ますんで」
「待ってください!待って……」
徴収人の取り立ては横暴極まりなかった。機械的で慈悲などない。下級農民の話など全く聞く耳を持たなかった。
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