立夏 [5月前半の頃] 夏の気配が立ち上がり、初夏の兆しが見え始める爽やかな季節

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帽子である。 猫の抜け毛を集めて成形して作る、猫用の帽子だ。 インスタグラムで、抜け毛の猫帽子を見た時、「私も作りたい!」と思ってしまったのだ。 ちなみに、猫ノ森図書館には、この猫帽子コレクションの本がある。① たくさんの猫帽子が載っているので、見ているだけでも楽しい。 例えば、季節ものの「鏡餅」帽子。 建築物を模した「スカイツリー」帽子。 モニュメントの「太陽の塔」帽子。 マスコットキャラの「くいだおれ太郎」帽子などなど。 さすがにそんなに凝った帽子は作れそうにないが、まずは「魔法使いのとんがり帽子」と「王冠」にチャレンジしてみようと思っている。 なにより、猫の帽子作りは、猫も人間もメリット尽くしのwin-winだと思うのだ。 ブラッシングすることで猫の毛玉防止になるし、その抜け毛を再利用・有効活用して帽子が作れるなんて、まさに一石二鳥!なんてサステナブル!なんてSDGs! …まぁ、その帽子を被って猫が喜んでくれるかどうかは「?」だけれども…。 そういうわけで、私は館内を歩き回って、見つけた猫たちにブラッシングをしていった。 抜け毛は、それぞれ誰の毛なのか付箋に名前を書いて、箱の仕切りごとに入れて集めていく。 今までにも何回かしているが、猫にブラッシングをかける度に、貯金のように抜け毛が増えていくのは楽しい。(抜け毛の収穫祭!) 「リーちゃん、ありがと」 ブラッシングを終えた猫にお礼を言うと、どういたしまして、というようにリーちゃんは喉をゴロゴロいわせた。 リーちゃんは、サバトラの女の子だ。 英国の作家、アリソン・アトリーにちなんだ名前なのだが、例によって私は勝手にリーちゃんと呼んでいる。 アメショ(アメリカンショートヘア)似の外見で、友好的で人懐こい。 他の猫にブラッシングしているのを見て、「ねぇねぇ、それ気持ちいいの?私にもやってやって!」という風に自分から志願してくれた子だ。 愛想もよく、なんとなく猫ノ森図書館のパティシエール、楓さんと似ているな、と思う。 「さてさて、次は…と」 大きな張出し窓の、出っ張り部分で寛いでいた桜桃梅と再び目が合う。 懲りずに、私がダメもとでブラシを見せると、「仕方ないなぁ、少しだけならいいよ」という風にゴロンと寝そべった。 近づいて、恐る恐る桜桃梅にブラッシングをかけてみる。 普段は抱っこはおろか、撫でさせてもくれないのに、ブラシ込みでも初めて触れることができたので、ドキドキしながらも感激してしまった。 桜桃梅は誰とでも気軽に気安く打ち解ける子ではないが、それは私も同じかもしれない。 だから、ちょっとでも私に心を許してくれたのだとしたら、とても嬉しい。 「帽子ができたら、一番最初に桜桃梅に見せて、被らせてあげるからね」 私の言葉に、桜桃梅は「好きにすれば?」というように片目を開けて、チラッと私を見たのだった。    蚯蚓出 [みみずいづる] 了    次回、竹笋生 [たけのこしょうず] に続く ****************************** ①『ねこ、かぶり』rojiman&umatan/著  2017年/刊 宝島社/出版
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