おにいちゃんと猫

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『わたし、ネコなんです。  ひとじゃないみたい。  パパがいたときはひとのこどもだったんだけど、パパがでていっちゃって。  パパはヒトデナシだったそうです。ママはヒトデナシのパパがきらいでおいだしちゃった。それでわたしも』  ペンを握る手が震える。あぁ、思い出しちゃった。  あいつのこどもなんてみたくない、どうしておまえがうちにいるのよ、わたしとあいつのこどもなんて、いらなかったのに。わたしとあいつのこどもなんて。きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。  あんなヒトデナシよりいいひとがいるのよ、もちろんそのひともおまえがきらい、だからけっこんするときはおまえをおいていくのよ。ほけんじょでしょぶんしてもらうのもいいかもね、がいじゅうで、みんなメイワクしてますって。  ……あぁ、おまえのせいで!! おまえのせいであのひととけっこんできないのよ、きもちわるいのがすみついてるからよ!! ……もう、おまえのせいでじんせいめちゃくちゃ。こえなんかききたくない。しゃべらないで。へやなんてやらないからね。エサもやらない。ろうかでもねないでよ。きたない、のらねこみたいだもの。  ……なに? なによ、なにかいいたいことでもある? しかたないでしょ、ヒトデナシのこなんだから。だまって「にゃあ」とでもいいなさいよ。  しかたないのよ。おまえがきたなくて、きもちわるくて、わたしをふこうにするやつだからわるいのよ……。  ──ひらがなが下手になってきた。  頭の中ではこんなに考えられるのに、ひとの言葉になってくれなくて、思ったことが途切れ途切れに(つづ)られていく。 『さびしい、おなかすいた、しゃべり たくない おこらる しにたくな』  ママの声が襲ってくる。ペンを投げ出しそうになる。だめ。伝えなきゃ。 『ママの、ママのじゃましたくないの こんどこそ、だからにげた でもわたしまだママのことすきだよ、かえりたい、こわいけど。つらいけど  でも、でも、でもでもでも、ママがふこうになるからいっしょにいられない、ママがこわくなっちゃったの、わたしのせいだから』  ……私のせい? ほんとに? なんで私、まだママのことが好きなの?  わかんない。考えたくない。もうやだ。  ちょっと心が落ち着いた。  そう。落ち着いて、おにいちゃんにお願いしなきゃ。 『……つかれたの、わたし。  なやむの、びくびくするの、こわいっておもうの、ぜんぶ、もうやだよ。  いきたくなくなっちゃったの。だから──  おにいちゃんに、わたしをしなせてほしいんだ。』  
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