雪と涙に背を向けて

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 由美は車椅子生活になったというのに、どんどん綺麗になっていく。まるで何か目標があるようだ。それが何であるか私は聞くことができない。私は仕事以外の時間は部屋に引きこもるようになった。由美が眩しいのもあるが、世の中自体が眩しいのだ。割り切れないものが世の中に多いのは分かっている。いや分かったふりをしていただけだ。己の身の上に降りかかるとその重責に私は潰されている。 「お姉ちゃん、たまにはお出かけしない?」  二年目の冬、また久しぶりに私に声をかけてきた。 「みんな、心配してるよ?」  朝食の時間。唯一家族が揃う時間。 「私はいい……。楽しんでくるといいよ……」  友達とも疎遠になった私を由美は心配する。あの日からもう二年も会っていない。 「楽しんできなよ。みんなで」  みんなという言葉の中に私は存在しない。その日もしんしんと雪が降り積もり、街を銀世界に変えていた。由美が声をかけてくるのは、あの日のように雪が降り積もる日だ。まるで狙いすましたかのように雪の日にだ。  やはり怒っているのだろうか。私があの日を忘れないように故意に雪の日に声をかけるのだろうか。仲良しの姉妹であったはずなのに、それはもう遠い昔だ。もう戻れないんだ。  それからも由美は必死でリハビリに通い、また冬が来る。三年だ。由美は三年も必死に通い続けている。歩ける保証なんかないのに……。  また私たちの住む街に雪が降った。由美は母と一緒にリハビリに向かう。私は相変わらず部屋に引きこもる。一日引きこもるつもりだったのにノックの音がした。 「薫、入るよ」  父がそっとドアを開けて布団の中で丸まっていた私を優しく叩いた。 「薫、そろそろ進まないか? 後悔ばかりしても仕方ないだろ?」 「でも……」 「ちょっとお出かけしよう。準備しておいて」 「でも……」 「気晴らしだよ」  父が勧めるままに私は着替えて、父の車に乗る。父の車にも乗るのも三年ぶりだ。家族の誘いも全て断ってきた三年。なぜ今日は父が誘ったかも分からない。ただ、辿り着いた先で私の手は震えてしまう。由美がリハビリに通っている病院。動けずにいた私を父は手を引いて歩く。 「もう三年だよ。薫ももうちゃんと知りなさい」  予想通りに父は由美がリハビリをしている場所へと向かったが、その場についても扉を開けずに立ち止まった。 「よく聞き耳を立てなさい」 「盗み聞きなんて……」 「大切なことが聞こえるはずだ」
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