バレンタインには好きな人にチョコレートを

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朝陽君となし崩し的に付き合うことになって、正直、嬉しい、楽しい、幸せって気持ちと、せつない、虚しいって気持ちが半分半分ごちゃまぜにしたような毎日です。 一緒にいられるのは嬉しいし、話ができるのも楽しい。 彼女でいられて、幸せだなって思う。 けれど、朝陽君は別にあたしのこと好きなわけじゃないのになって思うと、この関係が虚しいなって思う。 本当の彼氏彼女になりたいのにって思っちゃうんです。 普通、思いますよね? そんなわけで、そんな毎日をそろそろ終わりにしてもいいんじゃないかと思ってます。 なぜかというと、感じるからです。 視線を。 最近、あの朝陽君を振った湊川さんの視線を感じます。 年上の彼氏と別れたらしいって噂、本当なんでしょうか? もしかして、あの時振ってしまったけど、その後で朝陽君のことが気になりだしたのかな? もしかして、あの時は断らなきゃいけない理由(彼氏がいたから?)があったけど、本当は好きなのかな? そんなの放っておけばいいのかもしれないけど、今のこの状態が辛かったので、思い切って朝陽君に言うことにしました。 放課後、朝陽君の教室に迎えに行き、声をかけました。 「あのね、朝陽君。 実は湊川さんが最近朝陽君を見てる様な気がするんだけど」 「へえ、そう」 へえ、そうって それだけ? 「気にならない?」 「別に?」 「もしかして、朝陽君のこと好きなのかもよ?」 「そうだとしても関係ないだろ」 朝陽君の返事はそっけないし、片付けをしながらで、こちらの方を向いてもくれません。 「そんなこと言わずに もう一度アタックしてみたら?」 「別にいい。オレ今彼女いるし」 「そんなの別れりゃいいでしょ」 そう言うと、やっと朝陽君は手を止め、こちらを向いてくれました。 「……別れたいのか?」 「あたしのことはどうでもいいよ。 もともと恋愛感情があったつきあいでもないし!今すぐ別れりゃ済む話じゃない」 「……」 あれ、なんか眉間に皺よってるな。 「朝陽君、頑張って!」 そう言って朝陽君の背中をポンと叩いたんですけど、朝陽君は痛かったのか口元を引きつらせて不気味に笑ってます。 この顔は怒っている顔ですね。 なぜでしょう? そんなに強くて叩いてないのに。 「あ!そーだ! これバレンタインチョコ! 今までお世話になりました」 今日はバレンタインデーだったので、あたしはチョコを差し出してぺこりと礼をしました。 朝陽君はそれを受け取ると地の底から聞こえるような低い声を発しました。 「……ざけるな」 「は?今なんて言ったの?」 なんて言ったのか聞きとれず聞き返しました。 「ふざけるなと言ったんだ! なんだこのチョコは!お歳暮か!! バレンタインをなんだと思ってる。 バレンタインは好きな男にチョコをやる日だ。 一方的に別れを告げて、手切れ金がわりにチョコを渡していいと思ってんのか!!」 「あ、あの、朝陽君?」 あたしはびっくりして、名前を呼ぶぐらいしかできません。 「なんでオレが湊川にアタックしなきゃなんないんだ! オレはお前が好きなんだ! だから、別れるってのは却下だ! わかったか!!」 何を言われたのか理解できません。 えっと お前ってあたしのことですかね? まさか朝陽君はあたしのことが好きなんですかね? いや、まさかね? ボーっとしてると朝陽君はあたしがあげたチョコの包みを破って中身を確認しました。 「なんだこれは」 「へ?」 「お前、これ、土田と城田にやったチョコと同じだろ」 土田と城田ってのは朝陽君の友達だけど、あたしにもよく話しかけてくれるので、既にあたしの友達と言っても過言ではない。 「え?あ、うん。 一緒だよ。おそろい」 「ふざけんな!! 彼氏と他の義理チョコを同じにしていいと思ってんのか!?」 「え?あ、ごめん 嫌だった?」 別れるのに、あんまり立派なチョコ渡されても負担だろうと思ったんだけど。 いらない気遣いだったらしい。 一通り怒鳴って気が済んだのか朝陽君はふうっと大きく息を吐くと 「もう今年はこれでいい。 来年はもうちょっといいやつくれ」 と言いました。 来年? 来年もあるんですかね? そう考えながら、ボーっとしてると朝陽君はおもむろに手を伸ばし、「帰るぞ」と言いました。 気がつくとあたしの左手は朝陽君の右手に引っ張られていて、そのまま手をつないであたしたちは帰りました。 家まで送ってくれ、家の前で別れる時、朝陽君はあたしの正面に立ち、顔を寄せてきました。 驚いて固まっていると、あたしの唇に、なにか柔らかいものが掠めていくのを感じました。 ? 今のはなんでしょう? 見上げると朝陽君は真っ赤な顔をしています。 それを見るとあたしもつられて赤くなってしまいました。 「じゃ、また明日」 朝陽君は照れくさそうにそう言いました。 あたしも 「うん、また明日ね」 そう言いました。 それを聞くと朝陽君はとっても嬉しそうに笑いました。 あれ、これでいいのかな? あんなにモヤモヤしてた気持ちはどこかへ飛んでいってしまいました。 今は暖かい気持ちだけが胸にいっぱいに広がっていました。 うん、だからきっと、これでいいんだ。 来年…… 来年は手作りにしたいな。 そう思いながら、あたしは帰って行く朝陽君を見送り、いつまでも手を振り続けました。 オシマイ                                   
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