降り積もった雪の中で

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13時5分、私は作った、おにぎり弁当を前にして、炬燵に丸まり壁の時計を見上げた。 遅い。 14時には駅に着きたい筈の城崎は、一向に起きてこない。 これ以上は間に合わなくなる。 「城崎さ~ん」 聞こえないのを解っていて小声で読んでみたが、当然反応はない。 正直、間に合わなくてもいいと、私は思ってしまっている。 昨日とうって変わった、手のひら返しの自分に一瞬自己嫌悪する。 「はぁ」 城崎を引き留められない事は解っている。 観念したような、ため息と共に私は立ち上がり、元座敷牢に向かう。 ゆっくり、ゆっくり座敷牢に向かう。 ウグイス張りの床の音も、ゆっくりテンションの低い音を奏でる。 「城崎さん」 覗き混んだ元座敷牢には誰も、何もなかった。 一体どうやって去ったのだ、私は床の音に気づかない程、眠りこけていたのか? 涙が溢れてきた、あんまりだと思った。 一言も言わず、お礼も言わせず行くなんて。 「城崎さん」 私は涙声で呟いた。 「はい」 「城崎さん?」 「は、い」 苦しそうな返事が部屋の入口脇にあるトイレの中から聞こえてくる。 「時間です、よね、解ってるんですけど、お腹が……いや、新田さんの料理のせいではないですよ、新田さん平気なわけですから、美味しかったし」 腹痛?黒い寸胴の効力だろうか? 「荷物どうしました」 「トイレです、荷物担いだら、痛くなった、ので、トイレの広さに、感謝します」 最早苦しすぎてか、よく解らない事を言っている。 「現地視察、一人作業なら今日は休みます?会社に電話しますよ」 城崎は長い沈黙の後、苦しそうに、お願いしますと言ってきた。 「元座敷牢何かじゃない部屋用意しますから、移ってくださいね」 「いえ、本当に気に入ってしまったので、是非ここで、水回り揃ってますし」 本当に気に入った、と言うことは案内された時は、やはり気味悪かったのだろう。 もしかしたら寝れなかったのかも知れない。 だから私の助けを求める声が……私は昨日の城崎を言葉を思い出す。 雪の外に味方がいる。 「本当は座敷牢は使われた事ないですから、ご飯お腹に優しいの作っときますね」 私は、努めて平静を装い答えて、元座敷牢を後にする。 床の音は軽くスキップでも踏んでるかの様に、軽快に鳴っていた。
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