自分の為?

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自分の為?

「みのりちゃん、今そっちにジーパン履いた子、向かってる」 吉田恵子はスマホの向こうで、それだけ言い放って、電話を切った。 「本当に来た……」 希に来ると聞いていた来訪者だ。 眠気が吹き飛んで、久しぶりに慌てふためく。 城崎が帰ってから一週間程、何をするともなく、時折ニヤケてはボーッとする1日を過ごしていた。 今日も、早々と玄関の雪かきを終えた私は炬燵の中でボーッとした後、まどろんでいたのだが。 スマホの着信に目が覚めた。 壁の時計は14時をさしている。 私は炬燵から這い出て上着と防寒パンツを着こんだ。 「子って未成年者かな?」 初めての事だ、上手く対処出来るだろうか、緊張でフワフワした感じになっている。 私はスマホをポケットにねじり混み、玄関を出た。 今日は天気もよく雪の積もり具合は浅い。 家の前の道路はすっかり市の除雪車によって除雪されている。 取り敢えず、町に向かう方角を見た。 300m先の吉田恵子の家以外、人らしき姿は見て取れない。 反対の山に向かう方角に目を移すと……いた、白いダウンジャケットにジーパン、肩までの髪、白いニット帽姿の、恐らく女性、の歩く姿があった。 彼女は私の家を通り過ぎ、その先に行こうとしている。 私は走って行き、背中ごしに声をかけた。 「どちらに?」 振り返った彼女は、若い、顔の小さい、金髪に近い茶髪。 推定身長165~170cm。 160cmの私に押さえられるだろうか。 彼女は何か言葉を探しているのか、そわそわ沈黙していた。 「家、寄って行きます?豚汁ご馳走しますよ」 「いや、私、用事があるので」 彼女は慌てた様子で言葉を発した。 「この先にですか?」 彼女は、自分の行き先を一瞥したきり沈黙せざる得なかった。 私の家から50m先で道は途切れている、そこから先はちょっとした雪原と山しかない。 雪の中、町の一番端に位置するこんな場所に来る用事など、大体想像がつく。 「まあ、寄って行って下さい、豚汁、」 「ど、どこ行こうと、」 「この先、私の土地なので、山も」 「がっ、」 彼女は言葉を詰まらせ、異音を発した。 勝手、とでも言いたかったのだと思う。 彼女は踵を返し、暫く歩くと、道を外れて雪原の中に踏み出した。 「そこも、私のです」 「もう!」 彼女は、雪の中でジダンダを踏んで、道に戻っては、また暫く歩いて道を外れて雪原に踏み出そうとする。 「あっ、そこも」 「ちょっと!どこまでか言っといてよ!」 「道以外、視界に入る土地全部」 半分嘘。 「ふざけんな!そんな事」 「だから大丈夫。誰も入ってこれない、雪が守ってくれる」 そう言って、両手を広げて見せた私。 私にとっては本当にそう思える場所、だから言っただけの事だった。 彼女にとってそれが意味の有る事だとは思いもしなかったのだが。 彼女は泣きそうな顔で、演技がかって両手を広げた私を見ていた。 「豚汁食べます?」 無言で頷いた彼女は泣きそうにも見えた。
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