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私があの日、風呂の蓋の上でうっかり暖を取ったばかりにドジをして、そのまま残り湯に落ちて、全身びしょ濡れで、あれは本当に参りました。
あの後、呼んでも呼んでも二人は家にいなくて──
東風が大好きなこの絨毯を濡らしてしまった。二人が仲良く丸くなって眠る布団を濡らしてしまった。見つかったらきっと怒られるだろうと思ったんですが、どうにもこうにも寒くて寒くて──
二人の匂いがする布団の中で、最期に暖かな夢を見たんです。
夢の中の私はまだ小さくて、凍える段ボール箱から見上げた景色には、私を愛しそうに覗くあの時の二人が見えました。暖かく大きな手で私を包み「家族になろう」と言ってくれました。
あれは本当に嬉しかった──。
嬉しくて嬉しくて、たくさん泣きました。
なのに私は今、こんなにも二人を悲しませている──。
二人のおかげで私はこんなにも幸せだったのに……
私のせいで二人は不幸になってしまうんですか。
これじゃあ死んでも死にきれません──。
私は馬鹿みたいに戯れあって、呆れるほどに引っ付いて離れない二人が大好きだったんです。いい加減腹が立って二人を邪魔したら、二人はこれ以上ないくらいに私を愛でるものですから、私の嫉妬なんて泡のように消えてったもんです。
私が消えても、私が二人を大好きな気持ちは消えません。それは二人も同じでしょう? だから今こうして東風は泣いている。水月は苦しんでいる。
嗚呼、じれったい──
今すぐ二人に飛びついて、二人の間で暴れ狂いたいほどじれったい──
二人が離れ離れになってしまったら、誰が私の思い出話をしてくれるんです? 東風が水月にあげた誕生日プレゼントのマフラーの上で私が粗相したことも、バイオリンの弓で遊んでいたら普段早々慌てない水月がおかしな悲鳴を上げたことも、その時東風が笑い過ぎてなぜかしゃっくりが止まらなくなったのを──
水月の言うように、東風はよく一人で悪いことを考えては暗い顔を部屋でしていることがあったので、私が仕出かした数々の悪行を見て、東風が弾けるように笑う姿が本当に大好きでした。
彼が笑うとその場の空気全てが明るく色を変え、水月は私を叱るのも忘れて一緒になって笑うのです。東風はまるで私たちの世界を操る魔法使いのようでした。
あの時の水月の顔を東風にはよく見えていなかったでしょうか。私にはテレビの中の水月よりもずっとずっと優しくて、美しい人間に見えました。
──嗚呼、なんだか、だんだん腹が立ってきました。
人一倍怖がりなくせして、なぜか離れようとする東風も、誰よりも東風を理解しているのに、わざと酷い言葉を口にした水月も──
これも全て私のせいだというのなら私は誰よりも私という猫を恨みます。
二人がこんなにも愛でてくれた可愛い猫が自分を憎んでしまうんですよ、それでもいいんですか。それこそ一番悲しいことだとは思いませんか──。
……ここまで来るとちょっと図々しかったですかね、それもこれも二人が私を溺愛し過ぎたせいです。
嗚呼、何故だか少し眠くなってきました──。
きっと二人の心配など、慣れないことをしたせいですね。
眠ってしまう前に二人の喧嘩の後に出る、あの高級な柔らかくて美味い飯を食べたいものです。
それなのに、私のご飯皿は汚いままだ──。
最期に食べたあの日のまま、東風が悲しくて片付けられなくて、湿気た古いご飯が入ったままです。
普段ならキチンと新しいのに入れ替えてと、口酸っぱく水月に怒っていたくせに。これじゃあもう水月にも怒れませんね。
──では自らリクエストするほかないようです。
私は一か八か、思い切り前足を振り上げ、ご飯皿をはたいてみました。
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