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窓の向こう
遮る物の無い真っ青な夏空が恨めしい。
俺は少し身震いすると、ワイシャツの上の薄手のカーディガンをキッチリ羽織り直す。高層オフィスビルの内側は、暑い外気と無関係にシンと冷たい。
ましてやお盆の狭間で、うちの部署は俺一人。
修の阿呆! 夏休前に別れるコトないじゃないか!
デスクに突っ伏して、ため息を一つ。
仕事が無いことはないけれど、小一時間ボケッとしても罰は当たるまい。今頃、上司や同僚は家族旅行や帰省、恋人とバカンスなんだから。
実家住みで恋に破れた独身男に、留守番係の白羽の矢。ニッコリ笑って受けるとは、俺も随分大人になったものだ。
フン! そうだ、アレやってみよ!
急に子どもっぽい悪戯をしたくなった。
灰色の椅子の背に手をかける。いくつかを試しにキコキコ揺らしてみた後……
俺は椅子に飛び乗ると、通路をツーッと滑り出す。無機質に真っ直ぐ並んだデスクの間を、駆け抜ける。
ヒャッホウ! 爽快!
ドンドン加速をつけて、夢中になっていた。
ふと、視線を感じる。
いつの間にか薄暗い窓の外、作業服の若い兄ちゃんが腹を抱えて笑っている。二人組の窓拭きの片割れだ。
夏休み期間中はロッククライミングや山岳部の学生バイトが来るらしく、うちの会社の女子社員の間で、勝手にイケメンコンテストが開かれる。
老練の一人は見ないフリ、イケメンくんは爆笑中。
最悪!
頬がカッと熱くなる。クルッと背を向け逃げ出そうとした、まさにその時。
閃光と共に、突然ビルの電源が落ちた。
いきなりの集中豪雨。建物内まで音は届かないけれど、拭きかけの窓にはビッシリ水の玉。彼らはゴンドラにうずくまっている。こちら側は、窓の外はどうしようも出来ない。
バイトくんと目があった。笑い顔が一転、シャンプー中の子犬みたいに怯えた目つき。
俺は思わず、会社ポスターを引き剥がし、裏にマジックで『大丈夫ですか?』と書いていた。赤面も忘れて、それをガラスにペタリ。
そうしたら……腕で大きくマルを描き、青空みたいな顔で笑ったんだよね。
それが、十コ年下のリュウセイとの出会い。
数分後雨は上がり、恋とゴンドラも上がっていきました。
【終】
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