第四話 対決! エレイン vs 獄猟犬

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 二三歳という異例の若さで『ハイぺリオル』を発起した創設者にして、これまた異例の四三歳という若さで日本帝国方面軍の元帥に着いた男である。  名実ともに、日本の軍事力すべてを統括する存在であり、イギリスのカーナワン中将ほか他国の代表、果ては末端の兵士にも彼の信奉者は多い。  その原因はエル・リエ侵攻の際に、前代未聞の異世界に突撃することに臆した兵士たちの前に装甲車で飛び出し、彼らを鼓舞し牽引したことによる。    一軍の指揮官であり、それも一国の軍のトップが最前線に立つことの〝愚かさ〟を指摘する声はもちろんあるが、それはあくまで最前線で戦わない指揮官や専門家(デスクワーク)たちのくだらない文句に過ぎない。  最前線で戦う者たちからすれば、王見帝舞とは自分たちのために命を賭け、共に戦ってくれる指揮官だという認識が強くなり――英雄視する者もいる。  しかし一方で、これを機に彼の存在は国連からますます危険視されるようになる。  もともと帝舞は、『異能者』に目覚めた一般人の半強制的な徴兵をはじめとした『ハイぺリオル』の無茶苦茶な軍備増強にくわえ、自国を囮にヘパイストスと戦った『七月のラグナロク事件』、〝死刑囚〟の戦力起用など、倫理観や道理を逸脱した行為が目立ち、白い目で見られることがあった。  そしてこのエル・リエ侵攻を機として、そんな男に、日本のみならず他国の兵からの信奉(リスペクト)が多く集まればどうなるか、という危惧が国連に生まれた。 ・帝舞が国連に仇為すようなテロリズムに目覚めた場合、そこに彼への信奉者も加わるのではないか?  ・帝舞が国連に属さない新たな軍事国家を設立し、信奉者とともに世界のパワーバランスを乱すのではないか。  ……などなどといった憶測――とはいえまったくの根拠がないわけではない――を抱え帝舞を危険視した国連が、彼の動向を探り、また抑止する目的で遣わせたのがエレイン=デュラン中尉なのだ。  その際に彼女の階級は中尉から特務中尉となっており、ひとつ上の大尉階級と同等かつ日本帝国軍の命令から逸脱した単独行動の許可などの特権を国連から与えられている。    つまり、一応、日本帝国軍に属してはいるものの、国連の任務に準じたものならば、たとえ日本帝国軍トップの王見帝舞の命令だろうと完全に無視できる権限がある。  それが、エレイン=デュラン特務中尉だ。  ……さて、ここまですごくシリアスに、長々と、エレイン=デュランという軍人について説明したのにはワケがある。  それは、彼女の名誉のためだ。 「エレイン=デュランって人はすごく重い責任を背負ったすごいヒトなのだ」という認識を決して壊したくないためだ。  そして帝舞も。  一応この男も、すごく重い責任があるはずのすごいヒトなのだ。そんな彼の直属部隊である『獄猟犬(ヘルハウンド)』もきっとすごいヒトたちなのだと認識させたいのだ。  でも多分、ここから読み進めるとそれは無理だと思うので、今のうちに彼女たちの名誉のためにシリアスな説明をした。  そういうわけで、いよいよ本編である。  
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