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「いいぞー!」
「犬亦曹長! 相変わらずの美声っすねぇ!」
犬亦へと周囲の酔っぱらった男たちが歓声を投げる。すると犬亦は、すでに酒が入っているようで顔を赤らめた犬のような顔をだらしなく崩して笑顔をつくった。
「だろだろー? 俺ぁよ、軍人になる前はロックなアーティストを目指してたからな! だけど、最近の日本の売れる歌ってぇのは、恋愛だとか〝ザ・青春〟みたいな甘っちょろいモンばっかだろ?」
「あー、確かに。会いたくて震える的な?」
「そうそう。持ち主に気づいてほしいスマホの通知バイブかって突っ込みたくなるアレな」
取り巻きの男たちはげらげらと笑い、カラオケサイボーグ男も頷いた。
「もっとこう……ち〇こに響くようなアバンギャルドかつダイナミックな俺のロックで日本を――いや、世界を魅了したかったんだよなぁ。だけどそれは無理っぽいから俺ぁ、もっとち〇こに響く〝軍人〟って道を選んだんだ」
「アーティスト志望が軍人転向とか、実にロックっすねぇ犬亦曹長」
「お、マジ? 俺ロック? マジロック?」
部下の褒め言葉に犬亦は鼻の下を伸ばす。ただでさえ犬のような顔をしているのに頭の悪い犬みたいになった。しかし、
「ロックだよ、マジロック。あの〝ヒラナカ〟ってヤツにアソコ斬られた衝動で、ムカついて身体ぜんぶサイボーグしちゃうとことかもマジロック」
取り巻きの男の一人が皮肉気な褒め言葉を投げたことで、犬亦の顔は怒った犬みたいになった。
「お、なんだゴラ。サルワタリ! おめーケンカ売ってんのかゴラ!」
「売ってねぇよ、褒めてんだ。普通のそこら辺の男じゃアソコ斬られたからって、そこまで思い切った真似はできねぇ。だから『ロックだ』って褒めてんだ」
「そ、そうなのか……? ンだよ! 褒めてんなら褒めてるって最初から言えよゴラ~~~♪」
「褒めてんじゃねぇか。あと俺はサルワタリじゃねぇよ。猿渡な」
犬亦が再び馬鹿な犬みたいな顔に戻り、ふっと鼻で笑いながら猿渡がカップ焼酎を一口煽ったところで――、
「貴様らぁぁーーー!! 何をしているッ!!」
エレインの怒声が響いた。
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