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これは、『七月のラグナロク事件』と称される『天国』からの襲来からなる一連の戦いのあとの話。
ぶっちゃけて言うと、本編一章の後の話。
事の始まりは、ほんの三〇分前。
新宿某所にある喫茶店に、二人の男が訪れたところから始まる。
一人は休日をもてあましているが、一緒に遊ぶトモダチも〝息子〟もいないぼっちの王見帝舞。
半袖のシャツにズボンとラフな格好である。
そしてもう一人は、帝舞よりも大柄で、人目をひくほどに屈強かつ強面な男。彼の暇つぶしに付き合う羽目になった憐れな部下――神那継人である。
だが、その恰好はなんというか……アレだった。
半袖のシャツ。ここまではいいだろう。
問題は、黄色の下地に花のイラストがこれでもかと散りばめられた、とてもファンシーなものだった。
それを、身長一九〇ちかい筋肉質な、子供が見たら泣きそうな強面の男が着ているのだ。
「神那くん、もうちょっとこう……」
帝舞が苦言を呈そうとしたのは無理もない話である。
彼もとてもお洒落というわけではないが、最低限、外を出歩いても不自然でない恰好をしている。
「なにか」
対して神那は憮然としている。いや、憮然というよりかは、自分がいかにアンバランスな格好をしているのかが分かっていないといったところか。
「あ、いや……その、えっと……その服、いいね」
「恐縮です」
「……」
神那の怖い顔に圧倒され気味な帝舞は、彼に対して率直な意見を言うのをためらっていた。
日本を襲撃した『神』に「ボケナス」と言い切る胆力をもつ彼であるが、神那というトンデモ超人に対してはその胆力を活かせなかった。
――たぶん「その服ださいよ」とか言ったら、怖いことになるよなぁ~。ただでさえ怖い顔がさらに怖い顔になるよなぁ。つか、私ぶっ殺されるかも。
……と、内心で葛藤を抱きながら、二人は喫茶店に入り席につく。
彼らの目的……というのは大げさであるが、彼らがここに来た理由は、神那が〝あるものを目当て〟によく行くこの喫茶店に興味を持った帝舞が、「私も行くー!」と寂しがりやなおっさんな一面を出してついてきたことである。
これが、帝舞の恐怖の始まりであった。
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