転生したのは猫でした

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転生したのは猫でした

「危ない!」  道路のど真ん中で立ち往生した猫を助けようと、少年が駆け込む。  だが、車は無慈悲に少年と猫をはね飛ばす。  少年と猫は、即死でこの世を去った。  ーーー筈だった。 「死した魂を、異世界に転生させましょう」  真っ白な空間。魂だけとなったソレに声をかける者、それは神様だった。 「少年の清らかな心を、是非とも異世界で活かして欲しいのものです」 「にゃー」 「ん? あれ、少年の魂じゃない」  神様は手を振って地上を写す。そこには蘇生に成功して甦った少年の姿が。 「・・・。まあ、魂を送り込む事には変わりありませんし、大丈夫でしょう」  神様は猫の魂を異世界に転生させた。  異世界に転生したのは猫でした。  猫が異世界で転生してから、十二年が過ぎていた。 「部族の掟にしたがい、お前を旅に出させる」  猫耳を持ったオッサンが、同じく猫耳を持った少女に話しかけていた。 「ふあ~」 「ちゃんと話を聞きなさい。どうしてお前はこんなに能天気なんだ。だが、部族の中では飛び抜けて獲物を捕らえるのが上手い」  獣人族。それは、獣の特徴を持ち合わせた人間。 「まあ、外の世界に行ってもお前なら何とかなるだろう」 「ZZZ」 「寝るな!」  話を聞く気がないのか、はたまた飽きたのか、少女はいつの間にか寝ていた。自由奔放、正しく猫の性分。  予め用意されていた荷物を無理矢理持たされて、少女は部族の里を追い出されてしまった。 「えーと、街に行って冒険者になるのが、一番お前に向いている。かー」  少女は、軽く背伸びをして里の反対に向けて歩き始める。が、途中で眠くなり日の当たる草原で眠りこけた。  起きた時には、日が暮れていた。  街へたどり着いた頃には、門が閉まっていた。  翌朝、門番が門を開こうとして驚く。 「誰だ君は?」  どうやって登ったのか、少女は門の上で寝ていた。 「あ、おはよう」  起きた少女は呑気に挨拶する。 「兎に角、降りなさい」  軽く飛んで着地する。人の背よりも高い場所から地上に降りても、一切の音がしなかった。しなやかな身体で衝撃を完全に殺していた。 「この街へは何しに?」 「冒険者になりに来た」 「そ、そうか。その身のこなしならなれるだろう」  門番は門を開いてから、案内図を地面に描いて場所を教える。 「ここに、冒険者ギルドがある。道が解らなくなったら、通行人に聞けば教えてくれるよ」 「ありがとう」  少女はお礼を行って街中に入る。勿論、途中で脇道に入り目的地には行かなかった。 「おい、此処は俺達の縄張りだ。出ていけ」  袋小路の先にあった広場に男達が屯していた。 「嫌。其処の日当たりが良い場所で寝たい」 「どうやら痛い目見ないと理解しないようだな」  男達が少女の回りを囲む。 「やっちまえ!」  数分もたたずに立っていた者は少女だけとなった。 「つ、強え」 「今日から私の縄張り。お休みなさい」  倒れている男達を無視して、日向ぼっこにふける少女。起きた時には男達はおらず、夕暮れだった。
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