或る遊女の手紙

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 古ぼけたバスに揺られること一時間半。  祖父の生家に着くと、喪服に身を包んだ祖母から、遺品の整理を手伝ってほしいと言われた。  幼い頃に両親が離婚し、当時一家を支えていた父親の元へ親権を移されてからは、こちらの祖母とも疎遠になっていた時期もあった。だが、私が社会人になって東京へ出てから、祖母は心配してか頻繁に連絡をくれるようになった。  久々に会った祖母は想像よりもずっと齢を取っており、時折笑顔を見せてはいたが、無理をしているのは誰の目から見ても明らかだった。 「あんたは力持ちだから、あの人が残した本の整理をしてくれんけ?」  祖母に言われるがまま祖父の書斎へ導かれた私は、さっそく身の丈ほどの本棚から単行本や文庫、絶版となった近代作家の全集などを取り出し、段ボール箱に詰めていく。  無口だった祖父はいつもこの書斎を住処としていた。  人ひとりが生きていた証を封印しているような、そんな奇妙な錯覚に襲われながら単純な作業を繰り返していると、天が日に焼けた全集の隙間から一枚の封筒が零れ落ちた。雪のように白いそれは封がされておらず、あまり経年劣化が見られない。最近のものらしい。  手に取ってみると、そこには美しい字で『朝霧(あさぎり)様』と書かれていた。裏面には何も書かれていない。  朝霧とは祖母の名前ではない。  迷いながら封筒を傾けると、中から一枚の便箋が出てきた。
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