わたしを捨てないで

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   ああ……。寒い。寒い。  凍えるほどの冷気が、この真っ暗な部屋に充満している。指先も、氷のように冷たい。  この季節は、あとどのくらいで終わりを告げるのだろう。  私はずっと、この暗く狭い部屋の中に監禁されている。  外に出してもらえるのは、一年に一度。愛するあなたと私の。  それが終われば、私はまた真っ暗な部屋に閉じ込められる。  この現実が、悲しくて苦しい。寂しい。  ずっとずっとひとりぼっち。  次から次へと負の感情が湧き上がるのは、闇しか見えないからだ。「希望」も、一筋の光さえも、この部屋には入ってこない。  でも、私を閉じ込めるあなたを、嫌いになんてなれないの。私はあなたを、愛しているから。  あなたのことは、よく知ってる。昔からそばにいたから。  無邪気に笑う顔も。ふくれて怒ったり、感情のままに泣きわめく姿も。  私にそっと触れる掌が、とても柔らかくてあたたかいことも。  あなたからいつも、甘く懐かしい香りがすることも。  全部全部、知ってるの。  だけど、あなたが愛しているのは、私だけじゃなかった。  あなたのことをよく知っているのは、私だけじゃなかった。  私以外にも監禁されている人たちがいて、私とは別の部屋にいるようだった。となりの部屋から聞こえる、話し声。  一年に一度、部屋から出される時に顔をあわせる。 「あら、ごきげんよう」  そう言って、あの女性(ひと)は勝ち誇ったように笑っていた。  あなたにとっての「一番」は、私じゃない。  それはもう、わかっていて。  私はひとり。  たったひとりでずっと、この暗闇の中で生きている。  私は孤独だ。  だけど、一年に一度、あなたと過ごせる、あの幸せな時間があるから。だから私は、今まで耐えてこられたの。  どんな辛い環境でも、あなたが望むなら、それを受け入れようって。たとえ一年に一度でも、私を求めてくれる瞬間があるのなら。  私は、あなたのために生きたかったの。  それなのに…………。
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