わたしを捨てないで

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 楽しかった時間も、あっという間。  また、暗い部屋での生活が始まる。  だけど、もういいの。久しぶりに、あなたの顔が見られたから。あなたに「きれいだね」って言われたから。    それだけで私は、生きていける。  大丈夫。だい…………。 「そろそろ、行かなきゃな」  部屋の外から響いた、聞き慣れない言葉。 「なに……? 聞き間違い? 『捨てる』って、まさか……」  その時、部屋のすぐ外でガタガタと音がした。  あなたが私の名前を呼んで、「ごめん」と謝る。 「もう、いらなくなったから。さようなら」  そん……な……。私、殺されるの……?  なんで? どうして?  私、あなたに何かした?  ついさっきまで、あんなに笑ってくれてたじゃない。私のこと、「きれいだね」って…………。  嫌。嫌だ嫌だ嫌だ。あなたに殺されるなんて。  私、あなたのために今まで、こんなに頑張って生きてきたのに。  ……許さない。  そんなの絶対に、許さない。  大好きなあなたに殺されるくらいなら……。 「ん? 何か音がした?」  あなたが部屋の扉を開けた。  私はを突き破り、外へ飛び出す。 「ぎゃああっ!」  あなたが、私を見て悲鳴をあげる。  何よ、その顔。そんなに私が怖い?  でも、許してなんかあげない。 「……知ってる? 人の感情ってね、降り積もっていくものなのよ。壺の中に、どんどん溜まっていくの。嬉しいことも、悲しいことも。私の心には、『悲しい』や『寂しい』や『苦しい』が降り積もり過ぎた」  床に尻もちをついて怯えるあなたを見て、私は笑ってみせる。 「壺にも、溜められる限界があるの。その一定の境界線を越えたら、どうなると思う?」
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