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受験が終わった中学三年生というのは暇なもので、学校に行っても授業は消化試合だし、卒業式の練習くらいしかすることがない。
ぽっかり空いた時間に、今まで我慢してたゲームや漫画をぶっ込んで、そりゃあ気楽なんだけど。部活と勉強と行事と、まぁ人によっては恋愛と? 寝る間も惜しいほど忙しかった二月までが嘘みたいだ。
「このさ、エアポケットみたいな状態に名前はないのかな」
オレが外履きに履き替えながら呟くと、靴箱の向こうから卯月の声が返ってきた。
「本屋に行くとトイレに行きたくなる現象に名前がついてるくらいだから、あるかもね」
「何それ、なんて名前?」
「忘れたわ。受験前に余計な知識はできるだけ消去したの」
「便利な脳みそで羨ましいよ」
親からは同じ遺伝子をもらったはずなのに、卯月はオレよりずっと偏差値の高い高校に受かってる。同じ家から同じ学校に通う毎日も、考えてみれば明日が最後だ。
揺れるポニーテールを追って昇降口を出ると、体育館わきに見慣れない男子が立っているのが見えた。
「あれ? あいつ何だろ、学ランじゃん」
「転入生じゃない?」
「明日が卒業式だっつぅのに?」
「一、二年生ならあんまり関係ないでしょ」
「なんかキョロキョロしてんじゃん、職員室が分かんないのかな」
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